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肝蛭を防除し,低コスト化の第一歩としよう

岡山県真庭家畜保健衛生所  
主査 早 瀬 文 繁  

 畜産物の生産コスト低減に向けて,乳用牛部門では,牛群検定や受精卵移植による牛の改良,飼料の適正給与,削蹄,除角・BCSチェック等の牛体管理,暑熱対策等環境改善によるストレス要因の排除,乳房炎,ピロプラズマ病,肝蛭症等伝染性疾病の防除は,重要な課題です。
 家畜保健所は,肝蛭症の発生予防のため,虫卵検査を実施していますが,今回は,より一層の防除を図るため,感染経路,症状,予防を中心に解説を試みました。
  1. 感染経路
     感染経路を図1に示しました。
     糞便とともに排泄された肝蛭虫卵は,12から14日後にふ化し,ミラシジウムとなって水中を遊泳します。
     このミラシジウムが,中間宿主のヒメモノアラガイ(成貝の殻長は8〜10o。水田,小川,池,側溝等に広く分布。11月以降翌年3月下旬までは石,枯葉,工塊等の隙間に潜んで越冬。)に入り,1ケ月後にセルカリアとなって,再び貝から出て水中を遊泳します。このセルカリアが稲の茎や畦草に付着して被のうセルカリアになり,牛への感染の機会を待っています。
  2. 牛への感染と症状
     牛に摂取された被のうセルカリアは,小腸内で脱のうし,幼若虫となって腸壁に浸入後,腹腔を経て肝臓表面から肝実質内に侵入します。この虫は30〜35日間,肝実質を食べながら成長し,感染後40〜45日に胆管に移行します。そして感染後75日から85日後から産卵を開始し,虫卵を糞便中に排泄します。
     症状は,虫体の発育経過により,次のように分類されます。
    1. 急性肝蛭症
       主として,幼若虫が多数寄生し,肝実質を食い荒らしている時にみられるもので,極度の削痩,被毛粗剛,発熱及び血液中の好酸球の増加が起こります。食欲は旺盛で,「痩せの大食い」となります。末期症状は,食欲が減退し,下痢,黄疸が見られます。本症による死亡牛の肝臓の表面は,多発性出血性肝炎として観察され,直径1o程度の穴が多数あき,指圧により血液が滲出します。
    2. 慢性肝蛭症
       主に,成虫が胆管内に寄生している時にみられるもので,寄生数の多少により異なりますが,衰弱,貧血,削痩が起こり,さらにまた,乳成分の低下や繁殖障害に陥ったりします。この型の肝臓は,胆管炎や間質性肝炎として観察され,胆管から多数の肝蛭が検出されたり,肝硬変,胆管の肥厚,拡張,石灰化等の病変が観察されます。

       

      イ.乳成分への影響
       乳成分は,遺伝,年齢,産次,泌乳ステージ,給与飼料,環境(気温),乳房炎によって変動しますが,更に肝臓の機能障害によっても変動します。牛に摂取され,胃,小腸で分解,吸収された栄養素は,肝臓で体の栄養に適した栄養素に再び合成利用されます。このため,肝臓に肝蛭が寄生しますと,肝臓の機能が障害されて,栄養素の転換が不十分となり,乳汁生産のための栄養素の供給に支障をきたします。その結果,乳量および乳成分が低下します。
       S町における農家別の乳成分と牛群寄生率の関係を図2に示しました。
       寄生率が高くなるにつれて乳成分の極端な低下を示す農家が増える傾向にあります。
      ロ.繁殖への影響
       肝蛭の寄生により肝臓の機能が障害されると,肝臓内における栄養素の合成が阻害されるため,卵巣機能の減退や卵巣のう腫,頸管の弛緩,粘液の排泄過多,子宮の弛緩等の過剰発情ホルモン様症候群となり,不妊の原因の一つともなります。
    3. 異所寄生
       主として,肝蛭の濃厚感染地帯の牛にみられます。異所寄生とは,寄生虫の発育移行経過を逸脱し,他の臓器に寄生するもので,別名として迷入ともいいます。3〜5週齢の肝蛭幼若虫は主に,肺,腸間膜及び縦隔膜のリンパ節,皮下,脊髄,子宮に迷入します。肺への迷入では,出血性肺炎や細菌の二次感染による肺炎を起こすことがあります。脊髄,子宮への迷入は,起立不能や子宮内膜炎を起こすことがあります。
  3. 治  療
     一般的には,駆虫薬の投与のみを行いますが,時には強肝剤や栄養剤の投与を合せて行なうこともあります。
     駆虫薬は,胆管に寄生する肝蛭成虫を殺し,しかも肝臓を食い荒らしている未成熟虫をも殺減する効果の高いものを選ぶことが肝要です。従って,駆虫にあたっては,製剤の特徴(投与法,投与量等)や使用制限(乾乳・泌乳期別,牛乳及び食肉の出荷制限期間)等をよく理解するとともに臨床獣医師の指示のもとに実施することが必要であります。
  4. 予  防
     中間宿主のヒメモノアラガイを殺減する方法として,鯉やアヒルを利用する法,稲ワラに付着した被のうセルカリアを殺減する方法として,稲ワラのサイレージ化やアンモニア処理の方法があります。しかしながら,それを実施するには,かなりの努力が必要かと思われます。S町の各農家について肝蛭の寄生率と,稲ワラ,畦草の利用状況,糞の処理状況,駆虫薬の投与状況を調査しました。
     その結果,新ワラを年内から給与し,牛糞を田に野積している農家の寄生率は高く,逆に,新ワラの給与が遅く,牛糞を発酵している農家では低い傾向でした。また,新ワラを早くから利用し,牛糞を田に野積しているにもかかわらず,年3回の駆虫により寄生率の低い農家や新ワラは遅く利用し,牛糞も発酵しているにもかからず,周年,畦草や河川の草を利用するため寄生率の高い農家もありました。以上のような事実を踏えて,農家の方が最小限に厳守すべき予防策を次のとおり定めてみました。
    1. 年に最低1回は寄生虫検査を受け,陽性牛のいる牛群については,臨床獣医師の指示のもとで,乾乳時を含めて,年何回か駆虫を実施する。
    2. 刈り取り後の新ワラは,供与開始時期をできるだけ遅らすこと。翌年の4月移行の給与が望ましい。
    3. 水田の溝や河川敷の草は,生草での利用は避け,乾草にするとともに,乾草したものをできるだけ保存し,肝蛭(被のうセルカリア)の死滅した項に給与するよう努めること。
    4. 牛糞は発酵処理したものを使用すること。