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家畜診療日記

高梁家畜診療所(北房駐在)

係長 本 田 直 樹

 第4胃変位は日本で最初に報告されてから30年が経過しました。年々増加する濃厚飼料の給与に比例して多発の傾向にあります。その殆どは産後1カ月以内に発生し,乳熱,ケトーシスとともに分娩直後に陥りやすい疾病です。第4胃変位には飼養管理のほか運動,妊娠,遺伝的要因など誘因として関わっており100%予防することは不可能に近いでしょう。しかしその生産性への影響は乳量の激減,受胎率の低下など計り知れず,最小限に食い止めたい疾病です。
 日常の診療の中で思うに、乾乳期に入った牛に肥り過ぎの牛が多いように思われます。これは泌乳最盛期から泌乳後期にかけて,乳量を維持するがため,知らず知らず濃厚飼料を過給する結果,乾乳期過肥牛になると考えられます。また逆に何らかの理由で乳量に見合った濃厚飼料を喰い込めず,痩せ過ぎとなり,そのまま乾乳期に入る牛も見かけられます。
 乾乳期に過肥牛(B.C.S4以上)となった牛は,分娩後乾物摂取量が上がらず体脂肪の動員により身を削り泌乳します。このような牛は、肝臓を酷使して脂肪肝となり、ケトーシスなどの代謝障害を引き起こし第4胃変位を併発します。
 痩せ過ぎ或はベストコンディション(B.C.S3.5)で乾乳期に入った中でも乾乳期間の60日で胎児はその成長の3分の2の発育をするため,第1胃は大きくなった子宮に腹底から持ち上げられ,飼料摂取量が減少,これにより栄養不足となり過肥牛と同じように体脂肪の動員が起き,代謝障害を引き起こして第4胃変位が発生しやすくなります。
 乾乳牛すなわち妊娠牛の飼料給与は体重維持だけでなく胎児が成長するための栄養についても考えなければならないと思います。乾乳期の飼料は粗飼料が中心なので乾物摂取量を上げるためにカサ(NDF)が高すぎない粗飼料を給与してやるべきだと思います。例えばワラのようなカサの高い低品質な粗飼料を給与すると採食量を落し第1胃の容積を小さくします。
 乾乳前期は第1胃を休養させる時期であり,第1胃絨毛の再生を促すとともに十分な線維の層(ルーメンマット)を形成するのに足りる粗飼料を給与するようにしましょう。
 乾乳後期には第1胃が分娩後,飼料を十分に消化吸収できる状態に管理し,また第1胃内の細菌数を増加させ,セルロース醗酵からデンプン発酵への細菌数を除々に増やしていく必要があります。したがってさらに嗜好性のよい良質粗飼料を与えると同時に濃厚飼料(3〜4s)も給与するようにしましょう。
 分娩後すぐに訪れる高エネルギー,低繊維飼料給与に対して第1胃のルーメンマットがその粒子を効果的にとらえ,長く成長した第1胃絨毛からVFA(低級脂肪酸)を吸収する機能が備わっていれば,ルーメン内のpHの低下が抑えられるし,第4胃へのVFAの流入も少なく,第4胃内の異常醗酵も制限されます。しかしその機構が崩れると,吸収されないVFAは第4胃へ流入し,第4胃の運動が低下。或は第4胃が弛緩してガスの産生と蓄積を促し,分娩によって収縮した子宮や容積の小さくなった第1胃によって腹腔内は空洞化し,第4胃は上昇してガスが溜まり第4胃変位となります。
 他に飼料によるもの以外に低カルシウム血症が原因となって第4胃変位が発生します。低カルシウム血症になると消化器を構成する平滑筋の機能低下が起こり第4胃の弛緩を引き起こします。この予防にはアルファルファ等の乾草やミネラルバランスの良い濃厚飼料を給与しましょう。
 まとめとして第4胃変位を予防するには

  1. ボディコンディションを整え,
  2. 採食量の多い良質な乾草を給与し,第1胃絨毛を育て,厚いルーメンマットを作り,十分な容積の第1胃を作る。
  3. 乾乳後期にはカルシウムなどミネラルバランスを考えた飼料を給与する。以上3点乾乳期に特に着目し第4胃変位の予防と対策を述べてみました。