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食鳥検査の現状


岡山県健康づくり財団  
予防医学事業部環境部  
次長 藤 原 三 男  

 平成2年6月29日付けで「食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律」が制定され,1年余の経過措置を設けて平成4年4月1日から,わが国にも安全な食鳥肉を供給すると言う検査制度がいよいよスタートした。この制度がスタートしてから早くも3年余を経過しているので,本制度が制定された背景及び食鳥検査の概要等を述べ,当業種の現況を紹介してひろばの項としたい。

  1. 制定の背景
     食生活の多様化,健康志向の高まり等によりブロイラー鶏肉の消費量が増大する一方,食鳥の疾病に起因するサルモネラ,ブドウ球菌,キャンピロバクターによる食中毒の多発があるため疾病羅患食鳥肉の排除,食中毒細菌による食鳥肉汚染の防止等とその安全性の確保が急務となった。
     さらに,国際的な見地から食鳥検査制度を設けていないのは先進国では日本のみである。そして,食鳥の輸入に当たっては,残留物質等で汚染されていない安全な食肉を強く求める日本に,食鳥検査制度がないのはおかしいと言う非難の声が高かった。また,FADとWHDによる合同食品企画委員会は,1976年(昭和51年),貿易の円滑化と食鳥肉の安全性確保のために各国が食鳥検査制度を設けることを勧告している。
     因みに,カナダ1955年(昭和30年),アメリカ1957年(昭和32年),EU1971年(昭和46年)等で,日本はその点後進国と言っても過言ではない。
  2. 対象となる処理場
     法律に基づいて食鳥検査を受けなければならない処理場は,年間の処理羽数が30万羽以上のものに限られる(大規模食鳥処理業者)。これらの処理場は,都道府県及び厚生大臣の指定する機関(岡山県健康づくり財団)の検査員(獣医師)により検査されている。年間処理羽数30万以下のもの(認定小規模食鳥処理業者)は,食鳥肉衛生管理者(大卒又は厚生大臣指定講習会終了者)により検査が行なわれる。
     そして,平成6年度の全国処理場数は,大規模食鳥処理場206ケ所,認定小規模食鳥処理場3,930カ所あり,岡山県では前者が6カ所,後者が40カ所ある。いづれの処理場も年々減少傾向を辿っている。
  3. 検査羽数
     全国のブライラー生産羽数は,平成5年度6億4,600万羽,平成6年度は6億2,100万羽で,このうち食鳥検査が実施された羽数は前者の99.7%に当たる64,450万羽,後は98.7%に当たる61,310万羽である。この数字からみる限り,国産ブライラーの約99%は検査され,安全な食鳥肉を消費者に提供していると言えよう。
     また,廃鶏処理では,平成5年度は9,429万羽,平成6年度9,070万羽で,このうち食鳥検査が実施された羽数は前者の76.1%に当たる7,177万羽,後者は74.4%の6,745万羽である。この数値からみると廃鶏の約75%は検査されていることになり,廃鶏の約95%は加工食鳥肉に利用されているので,ここでも安全性が確保されていると言っていいでしょう。
  4. 検査の状況
     処理方法の特徴として,ブロイラーは殆どの工程が機械処理されているのに対し,成鶏肉は部分的に機械処理がなされているものの手作業が主体である。こうした状況の中で,異常鶏の摘発,廃棄等の検査を実施している。
     ブロイラーの廃棄状況をみると,全べて廃棄されたものは平成5年度検査羽数の約1%に当たる649万羽で,平成6年度も殆んど同じ傾向にあり,その数は596万羽に達している。岡山県では,全廃棄率は両年度とも0.9%であり,いづれの年度も全国平均を下廻り,優良な食鳥が生産されていると言えるでしょう。
     また,廃鶏の場合の全廃棄率は2.0〜2.5%の範囲にあり,地域差が大きいのが特徴である。岡山県での全廃棄率は両年度とも2.49%であり,廃棄成鶏が多い地域と言えましょう。
  5. 全廃棄に占めるワースト5疾病
     平成5及び6年度の検査羽数に対する全廃棄数は,ブロイラーで約600万羽から650万羽で,廃鶏では約140万羽から226万羽であると述べたが,この廃棄鶏に占める多い疾病は次の5病気であり,これらが約92〜95%を占めている。それは,
    1. 削痩及び発育不良
    2. 腹水症
    3. マレック病
    4. 大腸菌症
    5. 放血不良

    岡山県でもほぼ同様な傾向にある。

     一方,廃鶏では

    1. 削痩及び発意不良
    2. 腫瘍
    3. 腹水症
    4. 放血不良
    5. その他

    その他に含まれる主な疾病は, 墜症, 秘症,ミュウラー管嚢腫が主体である。そして,岡山県の傾向も全国に類似した様相を呈している。

  6. 廃棄による損害額
     ブロイラーは,全国ベースで平成5年度に649万羽,平成6年度に596万羽が廃棄されているので,1羽の平均単価を約514円とすると,それぞれ約34億円と31億円と言う莫大な金額の損害となる。
     岡山県では,平成5年度が6,300万円,平成6年度は6,000万円の損害額となっている。
     生産農家段階での廃鶏価額は,地域差はあるものの0〜10円/羽であるため,損害額の算出はむつかしいので省略する。
  7. 新鮮で安全な食鳥肉の生産
     諸外国から安い食鳥肉が多量に輸入され,国産品を圧迫する等食鳥産業を危機に陥らせようとしていることは,既にご承知のことと思う。この安い外国製品(特に中国産)に打ち勝つため,安全で新鮮な肉を消費者に届けると言う基本理念に基づいて生産者と処理場が一丸となって自助努力している。
     因みに,生産農家はフイルドバックされる食鳥検査成績を参考にして,飼養環境改善に努め食中毒の原因菌の排除,清浄化等を実施しており,更に食鳥処理場は細菌汚染の防止に努め国産食鳥のイメージアップへの努力している。大阪近郊の食鳥処理場では,朝4時頃から業務を開始し,商品をマーケットが開店する10時には店頭に並べて販売すると言う超スピード処理による新鮮さで対処している。
  8. 今後の食鳥産業
     牛肉自由化後のマーケット市場は,従来に比べて肉類は大変安くなったと感じられている方が多いいと思われる。中でも食鳥肉は安値が切り下がり,止まることを知らない……不安が漂っている。
     昨年,大阪で開催のASANで,経済発展の伸びが高い中国は自国のために生産するのであって,外国に売るためではないと言っており,カナダの穀物輸出のターゲットは,日本から中国に移るであろうとも言っている。
     これらの状況からして,わが国への食鳥肉の輸入量は斬減していくだろう。この時期は,日本経済が恢復基調に向っていること中国等の東南アジア諸国に経済力がついてきたこと等を考え合わせると,3〜4年後には到来するのではないだろうか。
     いずれにしても,自国生産論の上にたち,消費者に喜ばれる安全,新鮮なヘルシイー肉と言うイメージを与えるよう自助努力を忘れては行き残る道はないであろう。

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