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(家畜保健衛生所だより)

鶏卵のサルモネラ汚染対策は今スタート

岡山県津山家畜保健衛生所 
北 川   久

 数年前,英国の農相が国会で「鶏卵はサルモネラで汚染されている」と発言し,大問題となり辞任する騒ぎがありました。欧米では1987年以降,サルモネラ(特にサルモネラ エンテリティディス=略称 S. E. )による食中毒が社会問題化し,以降国をあげてS.E.対策に全力を注いできました。

 一方,日本では,2年遅れて1989年以降食中毒等から分離される S. E. が,突然それまでのサルモネラ ティフィムリウム(略称 S. T. )を抑えて断突の第1位に躍り出て来ました。しかも, S. E. 汚染源の最右翼の食品が日本人の食習慣に欠かせない汚染が懸念されるわけですから厄介です。

 農林水産省も,こうした事態を深刻に受けとめ,ユ94(H6)年度から,「鶏卵等衛生対策推進事業」による鶏卵の生産段階におけるサルモネラ汚染の実態調査(衛生対策の指導もすることにはなっている)が3カ年計画で始まったわけです。安全で高品質な畜産物の生産が叫ばれて久しい今日,遅すぎる感はありますが歓迎すべきことではあります。

 “安全性の高い開放・小規模養鶏場”

 津山ではこの事業によるモニタリング(監視)検査を,平成6年度は15農場で実施しましたので,その概要を紹介します。

 血清によるスクリーニング検査(NPR)で疑わしい反応を示したものは15農場中4農場で,さらに精密な検査(ゲル内沈降反応)の結果1農場のみが陽性でした。

 また,細菌検査で,サルモネラを分離したのは15農場中3農場でした。これらのうち血清検査が陽性の農場では,糞受板,給餌トレー,鶏舎床,クロアカスワブから,食中毒の原因菌として大変問題な S. E. のほか2血清型を分離しました。平成6年度の調査結果で特徴的であったのは,サルモネラ陽性農場が@管内の飼育規模の上位(第1位〜3位)3農場であったこと,Aうち2農場がウインドウレス鶏舎であったことです。開放鶏舎で鶏群の小規模な養鶏場の方が,サルモネラ汚染の面からは安全性が高いということを改めて認識させられた初年度でした(表1)。

 “Aウィンドウレス養鶏場の実態”

 次に初回のモニタリング検査で S. E. や S. H. が分離されたため精密検査(全鶏群対象とし検体数を増して実施)を実施したAウインドウレス養鶏場のケースを紹介します。

 まず血清検査では表2に示したように全4鶏群ともNPR陽性鶏が非常に高率に認められたことです。NPR(非ひな白痢反応)はひな白痢の診断液に対してひな白痢以外の原因で陽性反応を示すものをいうのですが,それらの中にひな白痢菌と共通抗原性を有する(交差反応性NPR) S. E. , S. T. , S. H. など食中毒の主要原因菌が含まれています。この農場では4鶏群中導入後1カ月未満のC鶏群を除いて,ひな白痢と診間違うほど強いNPR陽性を示す個体がありました。それらの個体は寒天ゲル内沈降反応(AGP)においても陽性で,交差反応性NPRと診断しました。

 “高率で強いNPRの原因は S. E. 又は S. H. 感染症と判明”

 この,農場の各鶏群のNPR陽性鶏各3羽(計12羽)について病性検査を実施したところ次のような特徴がみられました。

 @病理所見では,開放型鶏舎の鶏には普通はみられない喉頭の炎症(充出血,肥厚,カタール)が全例に認められたほか,卵巣に変性卵胞を有するものが7/12と多く,一部の鶏には,肝に針頭大の小白斑を有するものがありましたが,いわゆるチフス結節様のものは認められませんでした。A病理組織所見では,喉頭のほか,気のうにおいても慢性炎症があり,肝,卵巣にも感染症の所見を認めました。B細菌検査では,標的臓器(胆のう,卵巣,卵胞,卵管,盲腸)のうち盲腸を除く臓器から多数の S. E. 又は S. H. (サルモネラ・ハイデルベルグ)を純粋に分離しました(各2鶏群)。

 また,分離した S. E. は,ファージタイプT(PT1)で,いわゆる「東欧型」といわれ,近年,全国的に食中毒患者等からの分離が急増している S. E. であることが国立予防衛生研究所に依頼した検査で判りました。

 ともかく,この病性検査の結果,Aウインドウレス養鶏場の鶏の呼吸気道が,かなり汚れて傷んでいることと,高率で強いNPRの原因が, S. E. 又は S. H. 感染症によることが判りました。

 “細菌感染症に弱いウインドウレス鶏舎”

 結局,この農場では,鶏体又は環境から S. E. ・ S. H. を含む6血清型の菌株多数を分離し,その鶏群毎の特徴からA農場の S. E. ・ S. H. 感染経路は,保菌鶏の導入によるものであること,また,この農場の各鶏群が相当深刻なサルモネラ汚染をしていることが判りました。

 そこで何故,A農場で,このような深刻なサルモネラ汚染が起きたのかを探るため環境(ダスト,落下細菌)調査と血清疫学的検討を行いました。

 すると,表3に示すように,ダスト量が毎分10〜20r/kと,一般畜舎の環境基準0.1r/kの100〜200倍に達していること,鶏舎内ケージ列の端よりも中央部のダスト量が2倍も多いことが判りました。落下細菌数は,当然のことですが,ダスト量に比例していました。

 また,表4に示したように血清疫学的検討を行ったとこら,ダスト量の多い中央部列でNPR陽性率が高く,かつ強い陽性反応を示す鶏の多い傾向にあることが判りました。以上のような一連の検査・調査の結果,ウインドウレス鶏舎では,鶏の呼吸気道に慢性の炎症を生ずるほど降ダスト量が多く,気道を介して常時細菌汚染の危険に晒されており「細菌感染症に弱い」ウインドウレス鶏舎の弱点が明らかになりました。今後,立地問題等から,ウインドウレス鶏舎が増える可能性がありますが安全で高品質な畜産物の生産が,社会的ニーズになっている今日,このような弱点を克服する鶏舎構造等の技術開発が緊急な課題となっています。

 さて,終わりに肝腎の鶏卵の生産段階におけるサルモネラ対策ですが,比較的小規模で育すう・育成早期に発見された場合は,とう太などで有効な対処が出来る可能性がありますが,大規模な産卵鶏汚染が発見された場合には,法的整備が行われていない現状では,経営者の良心に依存するしかなく,事実上有効な対策はありません。生産段階のモニタリングから汚染鶏卵の取扱いまでに関する法制度の早急な整備が不可欠です。