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「声」

「日本に畜産はいらない?」

勝英地方振興局 農林事業部
農業振興課 畜 産 係 

 あるレストランでの話。どこかの金持ちらしい50代後半くらいの男性が,連れに話しかけているのが聞こえました。「やっぱり肉は,国産がうまい,わしはまずい輸入肉なんて絶対食わんぞ」。そう言って,フォークに刺したステーキをおいしそうに食べていました。どうみても「農業」とは縁のなさそうな男性であったことを覚えています。
 街中では,こんな会話はごく普通にされているようですが,舞台裏はそう簡単なものではありません。日本の畜産はこれまでにない危機に直面しています。自由化による輸入畜産物の急増で国産価格が下落し,これが農家所得の低下,戸数の急減を招いています。さらに生き残りをかけて規模拡大を追求した農家は,周囲に気を配りながら家畜ふん尿の処理に悩んでいます。
 しかし,消費者はそんな農家の悩みも全く意に介していないように思われます。なぜなら「国産は新鮮で安全」「国産はおいしい」とは言うけれど,消費者は決して「日本の畜産を守るため」と言って国産を求めていないと思うからです。つまり,消費者にとっては新鮮で,安全で,しかもおいしくあれば国産でなくてもよいことにならないでしょうか。もし,そんな畜産物が手にはいるようになり日本の畜産の有無までが問われるようになっても,消費者は困らないということになります。
 まず,そんなことは起こり得ないにしても,消費者と畜産農家の間に確実に溝をつくっている環境汚染問題については,全力をあげて取り組み,消費者の畜産に対するイメージの回復を図るとともに,消費者の国産に対する意識を「おいしい」「新鮮」「安全」だけから「日本の畜産を守るため」までにレベルアップを図ることが当面の私たちの課題だと思うのです。
 今や,冒頭のレストランの男性のように,消費者が「わたし食べる人,あなたつくる人」のような意識でいることはもう古い。消費者が「わたしもつくる人」として生産者の立場に立ち,互いに協力し合うことで,はじめて「国産」の真の価値が見いだされ,日本の畜産の必要性を知るのではないでしょうか。
 幸い,近年のアウトドアー時代の影響で消費者は,生産現場に近づき,体験したいというニーズが強く,レジャー感覚での「田舎でショッピング」がトレンディーとなっているようです。これを好機としてとらえ,ファンサービスとしてバター,チーズ,ウインナーづくり教室の開催,牧場開放,援農募集などを行い,生産から消費まで一貫した畜産物の生産現場を紹介し,畜産ファンを増やすことに取り組むべきだと思います。
 21世紀の産業としてアグリビジネスが有望視されていますが,21世紀の畜産を担う人は,生産者と消費者が融合するという意味を理解し,対応できるかどうかにかかっていると思われてなりません。