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「事例紹介」1

フリーストール牛舎ににおける
ふん尿処理の現状について

岡山県総合畜産センター

飼料環境部 田原 鈴子

はじめに

 フリーストール牛舎は,つなぎ飼い方式にくらべ多頭飼育が容易で,労働生産性の向上,労働環境の改善,経営規模拡大等が期待されています。しかしその反面,従来のつなぎ飼い牛舎に比べて高水分きゅう肥が排出されること,またパーラーからの多量の洗浄水の処理が新たな問題となっております。本県においても,フリーストール方式を導入する酪農家が増加してきており,現在ルーズバーンも含めると21戸となっております,当センターでは,県内でフリーストール方式を導入している酪農家10戸(平均飼養頭数は約100頭)を対象に,ふん尿処理の実態調査を行いましたが,この調査結果をふまえて,フリーストール牛舎におけるふん尿処理方法についてその問題点と対策について述べたいと思います。

1.フリーストール設置農家の現況

(1)ふん尿処理方法

 調査農家のふん尿処理方法について表1に示しましたが,堆肥化処理,乾燥処理,草地還元に分類され,それぞれ3戸,3戸,4戸でした。

 乾燥施設をもたない農家では,敷料を多く用いるなどして水分調整を行っており,敷料(副資材)の種類としては,オガ屑が最も多く,次いでもみがら,バーク等でした。

 また,堆肥化を促進するため水分調整後,ブロワーで強制通気をおこなっている農家もありました。調査農家10戸のうち4戸が堆肥,乾燥ふんを敷料として再利用していました。

表1 調査農家におけるふん尿処理方法



 農家No.  処 理 方 法



  1   石灰による化学処理後、推積

  2   野積みおよび圃場還元

  3   石灰による化学処理後、乾燥施設で乾燥ふんとする。一部は、圃場還元

  4   堆肥舎に推積(切り返しなし)後、圃場還元

  5   スラリーとして草地還元

  6   乾燥施設で乾燥ふんおよび圃場還元

  7   乾燥施設で乾燥後推積し、強制換気して堆肥化

  8   堆肥舎で堆肥化

  9   野積み、草地還元

  10   こまめな切り返しによる堆肥舎での堆肥化処理


(2)パーラー排出汚水の処理方法

 調査農家におけるパーラー排出汚水の処理方法を表2に示しました。調査結果によると,パーラー,バルク,搾乳ストールなどの洗浄汚水の処理方法は,地下浸透,放流,圃場散布,等に分類され,それぞれ,2戸,3戸,4戸でした。パーラーから排出される汚水を地下浸透したり,放流する場合沈澱槽,曝気槽を利用しています。

表2 調査農家におけるパーラー排出汚水処理方法



 農家No.  処 理 方 法



  1   3つの沈澱槽を通した後、放流

  2   土壌浸透

  3   ミルカー、バルククーラーで利用した水をパーラー内の洗浄水として使用後、
      ふん尿と混ぜて石灰処理

  4   パーラーおよびミルカー、バルククーラーの洗浄水はは消化槽で処理し、
      パーラー内洗浄水は圃場撒布

  5   スラリーと合流し、草地還元(定置配管)

  6   パーラー内洗水浄は曝気後土壌植物濾床にて処理し、放流

  7   10tの汚水槽に貯留後、草地に散布

  8   放流

  9   ミルカー、バルククーラーで利用した水をパーラー内の洗浄水として使用後、圃場散布

  10   沈澱槽、曝気槽を通した後、土壌浸透


2.問題点および対策

(1)ふん尿処理

 表3に乳用牛1日1頭当たりの平均的なふん尿排泄量を示しました。搾乳牛では1日1頭当たり約60sのふん尿を排泄しますが,フリーストール牛舎では,ふん尿分離が困難なため,高水分きゅう肥が排泄されます。その量は,個体,給与飼料および環境等の飼養管理によっても変動しますが,年間1頭当たり約22t排泄されることになります。ふん尿を処理する方法として,乾燥処理,堆肥化処理,液状コンポスト化処理,焼却処理等がありますが,ここでは,一般的に行われている堆肥化処理について述べます。堆肥化は,好気的微生物の働きにより行われるため,水分調整(65%程度)と空気の確保が必要です。水分が高く通気性が悪い場合は,この好気的微生物は酸素不足となり活動が停止します。フリーストール牛舎においては,水分含量85〜90%程度の高水分ふん尿が排出されることから,オガ屑,もみがら等の副資材を利用したり,乾燥処理施設による水分の蒸散等で水分調整を行わなければなりません。良好な発酵が得られれば,良質堆肥が生産でき,衛生的にも問題がなく,作物,土壌にとっても良い結果となります。

区分 体重 1日1頭あたり 1年間1頭あたり
ふん量 尿量 ふん尿合計 ふん量 尿量 ふん尿合計
搾乳牛 500〜600(550)s 30〜50(40.0)s 15〜25(20.0)s 45〜75(60.0)s 14.6t 7.3t 21.9t
成 牛 400〜600(500) 20〜35(27.5) 10〜17(13.5) 30〜52(41.0) 10.6 4.9 15.5
育成牛 200〜300(250) 10〜20(15.0) 5〜10(7.5) 15〜30(22.5) 5.5 2.7 8.2
子 牛 100〜200(150) 3〜7(5.0) 2〜5(3.5) 5〜12(8.5) 1.8 1.3 3.1
(堆肥化施設設計マニュアル 中央畜産会)

(2)汚水処理

 フリーストールのふん尿全量を乾燥,もしくは堆肥化処理する場合,排出される汚水はミルキングパーラーからの排出水のみとなります。パーラーからの排出汚水は,ミルカー,バルククーラー,パーラー内の洗浄水が主ですが,特に汚染の原因となりやすいのは,パーラー内洗浄水で,パーラー内に排泄されたふん尿を洗い流すことによる,排出水全体が汚染されます。このことからパーラー内に排泄されたふんは極力除去しなければなりません。

 洗浄排出汚水は,多量ですが,低濃度であり,ふん尿,牛乳,洗剤及び消毒薬等が混じっています。この低濃度汚水の処理方法として,土地還元や処理後の放流などが考えられますが,広い土地面積を持たない酪農家では圃場散布は量的に無理が生じます。また,放流する場合でも周囲の環境を考えて,汚染原因を取り除くことが必要です。簡易な処理方法としては,沈澱槽を設置し,固形物を沈澱させ,その上澄み液を曝気処理したり,本県で開発済みのオガ濾床,土壌植物濾床をこれに組み合わせての処理が考えられます。

 オガ濾床,土壌植物濾床の規模ですが,つなぎ飼い方式では,搾乳牛60頭の農家で,汚染水量を目量1.8kとすれば,オガクズ濾床,土壌植物濾床の必要面積は,それぞれ72m2,360m2となります。パーラー排出水は通常の尿汚水と比べて低濃度であり,また汚染原因のふんを除去することで,濾床にかかる汚濁負荷量を低減できるので,さらに必要濾床面積の縮小が可能でしょう。現在当センターで,パーラー内を洗浄した汚水を曝気槽と植物濾床で処理している酪農家1戸について追跡調査を行っていますが,これまでのところ表4のような成績が得られています。PHをのぞいてどの項目も,数値が小さいほど水がきれいなことを示します。汚れの度合いをみるCODでは,1710.1ppm が133.2ppmまで,BODでは,1225.0ppm が17.8ppm までに浄化されました。また,SS(浮遊物)は植物濾床の前後で127.5ppmが26.3ppm に減少しており,植物濾床の効果が高いことが分かりました。また,窒素,りんも減少傾向でした。冬季期間は調査中ですが,調査農家が積雪地域であることから,植物濾床には屋根をする必要性を感じました。以上の成績から,曝気槽と植物濾床の管理を適正に行えば,春から秋にかけての浄化処理が可能であると思われます。

  従来,酪農経営における汚水処理は土地還元が主ですが,フリーストール方式の導入により大規模化が予想され,パーラー排出汚水を含め,いかに効率よく汚水処理を行うかが今後重要な課題となります。

表4 パーラー内洗浄水の浄化状況

(mS/cm)(ppm)(ppm)(ppm)(MPN/100ml)(ppm)(ppm)
項目 PH EC
COD
BOD
SS
E.coli
T-N
T-P
洗浄水 7.35 2.42 1710.1 1225.0 1194.0 3,328,000 301.7 73.7
調整槽 7.14 2.37 784.8 867.0 602.5 1,850,000 195.1 55.6
曝気槽1 7.62 2.07 632.5 323.3 382.3 1,320,000 127.3 39.7
曝気槽2 7.73 1.90 318.9 50.0 178.8 1,063,333 60.8 23.9
曝気槽3 7.75 1.91 259.3 36.3 150.0 98,666 55.1 25.9
沈澱槽 7.74 1.93 250.9 43.3 127.5 109,050 47.8 26.7
植物濾床後 7.00 1.58 133.2 17.8 26.3 139,200 45.7 8.8

おわりに

 以上フリーストール施設を導入している事例をもとに問題点,対策等について述べました。最近では,環境問題をめぐる社会情勢は益々厳しくなっており,その中で,ふん尿処理,悪臭の防止対策は,畜産経営上最も重要な課題の一つになっています。現在,県総合畜産センターにおいても,微生物による堆肥化処理技術,家畜ふん尿汚水と悪臭の同時処理技術の開発等に取り組んでいます。今後も効率的で低コストな処理方法の研究開発を進め,技術的な支援を行うことにより,これからの畜産振興に寄与していきたいと考えています。