ホーム岡山畜産便り > 岡山畜産便り1996年4月号 > 酪農・肉用牛経営の安定と自給飼料の生産

「事例紹介」2

酪農・肉用牛経営の安定と
自給飼料の生産

岡山県農林部普及園芸課   
技術参事 川 上 昭 美

1.はじめに

 円高のため輸入粗飼料が相対的に安値で入手できることから,酪農および肉用牛経営においては,購入飼料への依存度が高くなっています。特に近年においては,乾草や稲わらなどの購入が増加し,所得低下の要因となっています。
 一方,平成7年度岡山県自給飼料調整技術共励会とあわせて実施した県下の飼料作物生産費調査結果によると市販の乾草等に比較してかなり安く生産されており,自給飼料生産の有利性が明らかになりました。特に,本年度は米の生産調整により転作面積が増加しますので,転作作物として飼料作物を栽培し,酪農や肉用牛経営の安定を図りたいものです。

2.牛乳および和牛子牛の低コスト生産

  酪農や肉用牛経営を安定させるためには,牛乳や子牛をいかに低コストで生産するかということが課題となります。そこで農林水産統計年報から岡山県の生産コストの実態を明らかにし,その対策を考えてみたいと思います。
  平成6年度の牛乳生産費は表1のとおり,生乳100s当り費用合計は8,954円となっています。そして,生産費の構成を見ますと図1 のとおり飼料費45.5%,労働費29.5%,牛償却費10.4%,獣医師料3.4 %などとなっており,飼料費が最も大きなウェートを占めています。

  和牛子牛生産費は表1のとおり1頭当り費用合計は457,031円となっています。そして,生産費の構成は図2のとおり,飼料費44.8%,労働費25.8%,牛償却費17.0%,敷料費3.4 %などとなっており,牛乳と同じく飼料費が最も大きなウェートを占めています。

 表1 平成6年度牛乳・和牛子牛生産費

区分 生乳
(100s)
和子牛
(1頭当り)
種付料 95円
1.0%
7,190
1.5
飼料費 4,076
45.5
204,487
44.8
敷料費 102
1.1
15,435
3.4
光熱水費 240
2.7
1,387
0.3
獣医師料 301
3.4
12,844
2.8
賃借料金 87
1.0
4,405
1.0
牛償却費 934
10.4
77,743
17.0
物件税 73
0.8
4,057
0.9
建物費 176
2.0
8,171
1.8
農機具類 222
2.5
2,667
0.6
生産管理費 11
0.1
653
0.1
労働費 2,637
29.5
117,992
25.8
費用合計 8,954
100
457,031
100
 
 以上のとおり,牛乳および和牛子牛の生産費のうちで最もウェートの高い飼料費をいかにして引き下げるかが低コスト生産のポイントとなっています。特に最近は,円高傾向にも鈍りがみられ,購入飼料価格も値上りしていますので飼料を低コストで確保する対策が必要であります。

3.飼料作物生産費の実態

 平成7年度岡山県自給飼料調整技術共励会に出品された乾草およびサイレージの生産費は表2のとおりであります。材料草はイタリアンライグラスで各振興局から各1事例の報告があり普及園芸課旭地方専技室においてとりまとめました。
 乾草についてみると10a当り生草生産量は4,748 s,乾草生産量は1,187 sで乾草1s当り生産費は23.9円となっています。
 サイレージについてみると10a当り生草生産量は4,693s,サイレージ生産量は3,052sでサイレージ1s当り生産費は11.9円となっています。
 いずれも収量水準は高くないが,全般的に機械化体系が確立されており,10a当り労働時間が乾草で7.8時間,サイレージで5.7時間と極めて省力化されていることがコスト提言の要因となっています。

表2 乾草及びサイレージの生産費調査結果

製品名 乾 草 サイレージ
10a当り
生草生産料(s)
4,748 4,693
10a当り
製品生産量(s)
1,187 3,052
製品1s
当り生産費
23.9 11.9
合 計 27,622 35,334
材料費 6,848 8,414
労働費 6,286 4,519
減価償却費 11,993 16,597
修繕費 526 1,744
施設機械
使用料
1,190 2,235
支払地代 233 1,846
その他
雑 費
33 19

4.自給飼料の経済性

 自給飼料の乾草およびサイレージと購入飼料の比較をTDN価(可消化養分総量1s当り価格)によって行ないますと表3のとおり乾草等4種の購入飼料の平均が89.3円に対し,県内産の乾草が51.6円,サイレージが73.0円となっており,かなり安く生産されています。
 なお,平成5年度の統計調査事務所の調査結果は表3のとおりでありまして,自給飼料のTDN価は乾草68.0円,サイレージ78.3円でいずれも購入飼料より安く生産されています。したがって,飼料作物栽培管理機械を装備している酪農家や肉用牛農家において飼料作物を生産利用することは経済的に有利であることが証明されます。

表3 自給飼料の経済性比較

飼 料 名 市価、費用価
(円/s)
TDN(%) TDN価(円/s)
購入飼料 チモシー乾草 57.0 53.8 105.9
スーダングラス乾草 41.0 48.5 84.5
ルーサン乾草 43.0 48.0 89.6
ヘイキューブ 40.5 52.6 77.0
平均 45.4 50.7 89.3
自給飼料 H7共励会 乾草 イタリアン乾草 23.9 46.3 68.0
サイレージ イタリアンサイレージ 11.9 16.3 73.0
H5統調 乾草 イタリアン乾草 23.9 46.3 51.6
サイレージ イタリアンサイレージ 14.6 16.3 89.6
ソルガムサイレージ 14.3 15.4 92.9
トウモロコシサイレージ 10.8 17.4 62.1
平均 13.2 16.4 78.3
注:購入飼料価格は、平成7年9月調査
  統調は、統計調査事務所調べ
  共励会は、岡山県自給飼料調製技術共励会関係調査

5.おわりに

 牛乳や子牛価格の上昇があまり期待できない酪農や肉用牛経営においては,規模拡大によって所得向上を狙ってきました。しかし,その規模にも限度があるので経営内容を見直す時期に入ったと思われます。
 飼料作物生産利用のための機械や施設はかなり装備されていますので,これを充分活用し,転作田を利用して飼料作物を低コストで生産し,通年利用する堅実な経営にすることが,酪農や肉用牛経営を安定させる1つの方向であると思います。