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(特集)

コンサルテーションからみた酪農経営への自由化の影響

社団法人 岡山県畜産会


 農畜産物の輸入自由化は,我が国の農業に様々な影響を与えている。ここでは,輸入自由化が岡山県の酪農経営にどのような影響を与えているのか,@収益性への影響とAそれに対するリアクションとしての経営対応という側面について,経営診断結果を踏まえて検討してみたい。そのうえで将来の岡山県の酪農の在り方について考えてみたい。

1.自由化の影響

 酪農経営に対する自由化の影響は@すでに形となって現われたもの,Aそれに起因した精神的な影響が考えられる。

 1)形となって現われたもの

―収益性の低下―
   すでに形となって現われたものは収益性の低下である。その最大の要因は,廃牛価格とヌレ子価格の下落である。平成3年4月からの牛肉輸入自由化以前は12万円台であった乳雄のヌレ子価格は,平成3〜4年は2〜3万円台で推移した。また廃牛価格の下落は,乳牛処分損という形で所得に跳ね返り,乳牛処分益と処分損の差額の推移を見ると,自由化合意以前はプラスであった差額が,平成2年以降マイナスに転じ,平成3年以降はマイナス3〜4万円となった。
 その結果,経産牛1頭当たり所得の推移を見ると,昭和63〜平成元年には24〜25万円であったものが平成2年から下がり始め,平成2年は18万6千円,平成3年は11万6千円,平成4年以降は15万円前後で推移している。
 この間,乳価の多少の値下がりはあったものの,後述するように個体当たりの産乳成績は向上し,購入飼料価格は安値で推移していた。したがって所得ダウンの要因は,廃牛とヌレ子価格の下落につきると言ってもよい。

 2)収益性の低下による精神的な影響
―戸数の減少―

 このような収益の大幅な低下は酪農家に将来の経営方針の決定を要求することになる。
 ここで,岡山県の平均的な酪農専業経営をイメージすると,家族は経営主夫婦と両親と子供2人の6人,労働力は夫婦2人で,経産牛飼要規模は34頭(平成6年コンサルテーション受診農家平均)というところである。平成6年の経産牛1頭当たり所得15万3千円では,年間所得は520万2千円で,世帯員1人当たり家計費98万4千円(農水省「農家経済調査」平成5年:専業農家)とすると,6人家族で590万4千円となり,家計費を充足させることができないことになる。当面,家計費の節減で対応しても,子供の教育などを考えると,従来の経営システムを見直し所得向上を目指すか,廃業し他産業へ転身するか,という決断を迫られることになる。
 岡山県の昭和63年以降の酪農家戸数の推移を見ると,毎年100戸前後,年率で5〜10%の減少を続けている。全体のながれとしては,経営中止の原因は,経営主の高齢化や後継者の不在などが考えられるが,平成3年から5年にかけての減少率の増加は自由化の影響による収益の減少と,そのことが経営者に及ぼした精神的な影響(将来への不安)の結果であると考えられないだろうか。

2.経営対応

 しかし,現実には多くの酪農家が経営継続の意思決定をし,様々な経営対応をしてきた。

 1)酪農経営システムの見直し

 経営対応―酪農経営システムの見直し―の内容を見ると,大きく四つに分けることができる。一つ目はハードの見直しを最小限度にとどめ,経産牛1頭当たりの生産性の向上と可能な限りの増頭を行うもの,二つ目はその上で経営の複合化を図るもの,三つ目はハードの見直しと同時に乳牛管理システムを変更し,労働生産性の追及を行うもの,四つ目は生乳生産にとどまらず,自ら加工販売を経営部門に取り入れるということである。

 (1)ハード面のシステム変更を最小に抑えた試み

    システムの変更といっても,特にハード面の変更は土地・資本・人の問題が生じ,誰でもできるものではない。したがって,ほとんどのケースが,生乳生産に専念し,かつ,繋ぎ飼い・個体管理というシステムは変更していない。その上で,@.飼養管理技術の向上と牛群改良による個体産乳量の向上,A.省力化機械の導入による可能な限りの増頭,B.生産資材の低額購入などを,単独もしくは複数組み合わせることによって,所得総額の維持を図っていくものである。

@.生産性の向上による収益増の試み
 経産牛1頭当たりの生産性の向上については,本県の経産牛1頭当たり年間産乳成績の推移を見ても,昭和63年と平成6年を比較して,牛群検定農家で844o,コンサルテーション受診農家で1,420o,岡山県平均で808o向上している。この間の生乳販売価格は,昭和63年から平成2年まで上昇し,平成2年の102円をピークにその後下降し,平成6年は96円台に下がっている。しかし,前述のように,生産性の向上が上回り,経産牛1頭当たり生乳販売収入は昭和63年の65万8千円から平成6年の77万2千円まで向上した。
 しかし現実には,経産牛1頭当たりの生産性向上は廃牛及びヌレ子販売収入の減少をカバーし切れず,かつ一方で,乳量増加に伴う購入飼料費の増加も招き,自由化の影響は経営者の向上努力をスポイルしてしまっている。

A.規模拡大による収益増の試み
 頭数規模拡大については,平成元年と平成6年の頭数規模別の戸数,頭数の推移を見ると,戸数では小規模層ほど減少率が高く,10頭以下では53.8%と約半分の戸数になっており,逆に全体に占める戸数は少ないが50頭以上の層は156.1%と増加している。また,飼養頭数を見ると,酪農家戸数の30%に過ぎない30頭以上の層で,約58%の乳牛が飼養されている。このように,統計データからも酪農経営者が規模拡大により所得確保を図ったことが理解できる。しかし,現状では,ほとんどの経営で,ハード及び飼養管理システムの変更を伴わない規模拡大はもはや限界にきている。

 (2)複合経営の試み

 酪農以外の部門の経営への導入の試みは酪農経営者の意識変更の始まりと捉えてもよいであろう。
 従来,酪農経営の労働はきつくても,収益性は他作目と比較して低くはなかった。しかし,前述のごとく酪農経営の収益性は低下し,さらに売り渡し乳価は下降基調にあり,今後益々収益性の低下が予測される。また,将来厳しくなるであろう環境問題を考え,低収益のもとで新たな施設投資に対する不安を考えた場合,とりあえず酪農部門の規模は現状で維持し,労働競合のない複合作目の経営への取り込みや,酪農家が持っている飼料生産用の機械やオペレーターとしての能力を生かした経営展開が考えられる。従来,酪農部門は経営内で常に4番バッターの位置が不動であったが,以上のような状況を考えると,必ずしも酪農部門が不動の4番バッターである必要はない。

 (3)飼養管理システムの変更

 さて,酪農の基本システムを変更せずに収益性の向上に限界が生じた場合は,乳牛の飼養管理システムを変更し,放し飼い・群管理というシステムを取り入れ,より一層の頭数規模拡大を行い,労働生産性の向上を図ることになる。現在,本県でも増えつつあるフリーストール・ミルキングパーラー方式の導入がこれである。これはこのシステムが持っている,@搾乳作業,給飼作業,糞尿排出作業等の分担と合理化が容易で,1労働力当たりの管理頭数が増える,Aミルキングパーラーでの作業が安全でしかも作業姿勢に無理がなく,労働の質の軽減につながる。B休息場所や給飼場が搾乳場所と離れているため,搾乳環境が衛生的である,C牛が自由に行動ができるためストレスが軽減される,といったメリットに着目して労働生産性の向上により所得確保を目指すもので,労働環境の改善,畜舎環境の改善,消費者へのイメージアップもはかることが可能となる。
 しかし,現実にはこのシステムを採用した経営者から,導入後,@糞尿処理がうまくいかない,A建設費がかかりすぎた,B労働力が軽減されない,C個体管理が難しい,D資金繰りがうまく行かない,といった問題点が提起されている。
 新システムに移行する際,システム導入をあせるあまりに自己資本の充実を待たず,安易に制度資金や補助事業で,必要以上の設備や機械投資を行っているケースが見られる。設備や機械への新規投資は生産性を決定するとともに,長期にわたって,償却費や利子支払い負担という形で費用に跳ね返るものであり,長期的視点に立って元金・利息の返済能力や返済見通しを踏まえた投資限界的検討が必要である。また規模拡大した家畜の糞尿をどのように処理するのか,土地への還元はどの程度可能なのか,借地の必要性・可能性はあるのか,地域内での糞尿処理の可能性があるのかなどの検討が必要である。さらに労働力,技術力の現状の評価と将来見通しも検討しなくてはならない。これらを怠れば,導入後にさまざまな問題が発生することになる。
 したがってこのシステムの導入は誰でも可能であるというものではない。

 (4)基本システムの変更

 ―高付加価値商品の生産と販売―

@組合としての取り組み
 本県には蒜山地域にジャージーが飼養されている。県全体の乳牛飼養頭数は減少傾向にあるがジャージーは増加傾向にある。理由はジャージーの収益性が高いからである。ではなぜジャージーの収益性が高いのか。
 ジャージーはホルスタインと比較して産乳量は低いが乳質は乳製品加工に向いている。蒜山酪農協はそこに着目してジャージー牛乳を様々な乳製品に加工し販売している。その売り上げは年々伸びており,利益の一部を奨励金として組合員に還元している結果,ジャージーの乳量に見合った乳価(奨励金を含む)となり,このことが高収益につながっている。
 乳量は多少低くても,特徴のある高品質の牛乳を低コスト生産し,それを高く販売することも,収益を向上させる一方策である。北から南までホルスタインほぼ一色のわが国の酪農経営のなかでジャージー自体が高付加価値商品になり得るのである。

A個人としての取り組み
 組合で乳製品の加工販売を行い,組合員の収益向上を図っているケースとは別に,個人でブラウンスイス(高付加価値商品)を飼い,チーズを作って収益をあげている事例もある。20頭足らずの乳牛でも,センスと営業能力があれば,必要に応じて十分の所得は得られる。このような経営展開をしている酪農経営者にとっては,自由化の影響は少なくて済む。

おわりに

 農畜産物の自由化は今まで見てきたように,酪農経営者に対し,否応なくシステムの見直しを迫っている。このことは経営者のセンスが問われていると置き換えることもできる。多くの選択肢の中から,自分の置かれている社会状況,自然状況を的確に判断し,何を選択していくのかが経営者としての腕の見せ所である。準備期間はそう長くはない。

(筆者 本松)