岡山畜産便り96年7月号 家畜診療日記

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家畜診療日記

勝英家畜診療所

係長 正 木 丈 博

 私がこの管内へ赴任してから4年目になりました。ここで診療をして感じたことは前任地と比べ,非常に第四胃変位が多いということでした。
 この病気について簡単に説明しますと,種々の原因により第四胃の運動が抑制され,第四胃内にガスを蓄積し,腹腔内において第四胃が左方あるいは右方へ変位するというものです。症状としては食欲不振あるいは廃絶となり,第四胃の捻転を伴ったものでは急性経過をとり,発見が遅れると死亡することもあります。しかし術式はある程度確立されており,早期に発見すればするほど治癒率も高くなり,合併症(腹膜炎や重度の肝障害)を伴わない変位であれば,ほとんどのものは治る病気です。
 この管内では1日に2頭以上手術をすることも度々で,中には慣れっこになっている農家の方もいます。日も暮れて手術が終わり,やれやれと思いながら,いつも感じることはなぜこの病気が多いのかということです。
 平成6年度病傷事故の中で第四胃変位の発生率は県下全体が3.9%に対し,当管内で5.1%と多く,当家畜診療所でも手術を実施したものが116頭(内110頭治癒)あり月平均10頭近くありました。特に4月が最も多く,16頭ありました。
 これを年令別に調査したところ2〜3才の初産が31頭,3〜4才の2産目のものが38頭と両者で全体の5割強となっていまた。特に初産の31頭の内21頭のものが導入牛であったことが注目されました。また全体の8割程度のものが産後1カ月以内に集中していました。
 以上のようなことから,第四胃変位は特に産後若い牛で多発し,また導入牛などは飼料の急変や環境の変化などのストレスを受け,発生しやすい状況にあると思われました。
 平成 6 年度は管内の導入が多かったことなどの影響があったかもしれません。しかし最近もなお第四胃変位は多く発生しているように思われます。この病気の予防について考えてみますと,あまり画期的な方法はなく,地味で根気を要する話となります。私達が手術の後,お茶をいただきながら話していることを少しまとめて書いてみます。
@ 乾乳前から過肥にならぬように気をつける。
A 乾乳期には第一胃の回復を図るため,胃運動の刺激の強く繊維分の高く,良質な粗飼料を与える。(スーダン,イタリアン等)
B 分娩前には濃厚飼料を1〜2s程度投与し第一胃を慣らしておく。
C 分娩後は Ca 剤を投与する。
D 生菌剤を濃厚飼料給与開始と同時期より投与し,第一胃内の活性を図る。
E 給与飼料は急変は避ける。特に導入牛についてはよく注意する。また分娩直前になってからの導入はできるだけ避ける。
  それからもう一つの付け加えておきたい予防法として
F 定期的な削蹄,です。目的はもちろん足元の悪い牛をつくらないためです。足元の悪い牛を観察しているとよく座っています。相当悪くなると朝晩の搾乳時に無理やり立たされている時以外はずっと座ったままというものもあります。
 座ったままだと採食量も減少します。また胃運動も低下し,消化吸収率も悪くなり,その結果第四胃変位にもなり易くなります。実際診療していて第四胃変位で足元の悪いものが,わりにいるなと感じます。年2回の削蹄はそういう意味でも大切なことではないでしょうか。
 第四胃変位は手術すれば治るというものではなく,その経済的損失は多大です。この病気を起こす誘因は飼料,管理条件,運動,妊娠あるいは遺伝要因などさまざまです。今後はこれらのことを踏まえ,予防策について,もっと勉強していきたいと思っています。