ホーム岡山畜産便り > 岡山畜産便り1996年8月号 > 岡山県酪農・肉用牛生産近代化計画の概要

(特集)

岡山県酪農・肉用牛生産近代化計画の概要

岡山県農林部畜産課

 最近の酪農・肉用牛経営を取り巻く情勢は,担い手の高齢化や後継者不足,飲用乳価の引き下げや子牛価格の低迷,更には相次ぐ飼料価格の値上げなど,かつてない厳しい経営環境を強いられている。
 一方,ガット・ウルグアイ・ラウンド農業合意の受け入れに伴い,カレントアクセス相当の輸入義務はあるものの,当面は,高い関税相当量と輸入急増時における緊急調整措置(セーフガード)により,直接的な国内市場への影響は少ないものと想定されている。
 しかしながら,国際経済環境の趨勢を考慮すると中長期的には次第に影響が生ずることも懸念されており,また,今後のWTO合意の実施と平成12年以降の次期交渉で予想される完全自由化に対処するためには,国際競争に対抗でき得る低コストな経営基盤の確立が急務となっている。
 このため,去る1月,農林水産大臣が公表した「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」を受け,県では酪農及び肉用牛生産の近代化を総合的かつ計画的に推進するための,平成17年度を目標とした「岡山県酪農・肉用牛生産近代計画」を樹立すべく検討していたが,今般,策定作業が慨了したので,その計画概要について報告する。

1.基本方針及び基本的展開方向

(1)基本方針
 農業の自由貿易体制への移行や消費形態の量から質への変化,更には内外価格差を背景とした輸入畜産物の消費が拡大する傾向もみられることから,次の3点を基本方針として,本県酪農及び肉用牛の生産振興と流通等の合理化を総合的に推進する。

@ 農業の国際化時代に対応でき得る生産性の高い低コストな生産構造の実現
A 生産・処理・加工・流通・販売の各分野における可能な限りの合理化の推進
B 消費者ニーズに即した牛乳・乳製品・牛肉を適正な価格で安定供給

(2)基本的な展開方向
 環境保全に配慮しながら,土地条件の制約の少ない地域では大規模な企業的経営を展開する一方,中山間地域など土地条件の制約の大きい地域では家族経営を中心として,地域特性に応じた他作目との複合経営を展開するなど,付加価値の高い経営の実現を通じ,他産業従事者と遜色のない所得・労働時間の水準を達成する。

2.効率的かつ安定的な経営体の育成

(1)地基盤に立脚した経営体の育成
 認定農業者制度を活用した農用地の利用集積,水田裏作利用の推進,地域の実情に応じた草地等の造成,整備,更には,山林原野の放牧利用など,飼料生産基盤の拡充を推進する。
 また,ロールベール方式など効率的な機械化体系の導入や,公共育成牧場・農作業受託組織(農業公社等)の効果的な活用により,飼養規模の拡大等に伴う労働負担の軽減を図る。

(2)経営の合理化・高度化

○酪農経営

フリーストール・ミルキングパーラー方式の導入による規模拡大や,コンピューター管理による飼料の自動給餌方式の導入など,地域・経営の実情に応じて大規模な企業的経営を展開する。
更に,牛群検定の普及定着やスーパーカウの導入と受精卵移植技術の活用により産乳能力の高位平準化を図る。

○肉用牛経営

 飼養規模の拡大を基本に,産業としての経営の確立を図る。
 このため,繁殖経営では地域の実情に即した他作目との複合経営を推進しながら,放牧形態を活用した労働コストの低減と繁殖技術の向上による生産性の改善を図るとともに,育種価に基づく優良和牛子牛の生産を促進する。
 また,肥育経営ではスケールメリットを追及するための経営規模の拡大のほか,増体能力の向上や超音波測定器等を活用した出荷適期の把握による肥育期間の短縮等を通じて生産コストの低減を図る。

(3)生産性向上の目標
 牛乳・乳製品・牛肉の価格については,土地条件の制約や経済情勢により,国際水準に比べ,ある程度割高とならざるを得ない面があるものの,その置かれた諸条件下で可能な限りの生産性の向上を図るとともに,加工・流通の合理化と併せて,適性な価格での安定供給に努めることとし,現行の生産コストの低減目標を設定する。

○酪農経営       8割程度
○肉用牛経営(繁殖)  7〜8割
     〃  (肉専肥育)7割程度
     〃  (乳用肥育)7割程度

3.環境問題への適切な対応

 環境保全に対する関心の高まりの中で,酪農及び肉用牛経営の健全な発展を図るためには,家畜ふん尿を「土づくり」の資源として位置づけ,農地への還元を基本に,自己完結型の個別処理施設の整備と併せ,大規模・広域的な施設整備を促進する。

4.流通・加工の合理化

 集乳及び乳業施設の合理化については,他産地(北海道)との生乳販売競争に対抗するため,良質乳の生産対策の推進のほか,県下6カ所に分散する集乳施設(クーラーステーション)を県北・県南各1カ所に統合整備し,県外転送体制の強化を図る。
 さらに,乳業施設の立地の適性化や施設稼働率の向上を図るなど,乳業の合理化も推進する。
 肉用牛及び牛肉流通の合理化については,地域内一貫生産体制の推進を図る一方,効率的・衛生的な処理機能を有する食肉処理加工施設を整備する。