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酵素を利用した食肉の軟化について

 岡山県総合畜産センター  
  研究員 栗 木 隆 吉

 消費者にとって食品の硬さは,その品質を評価する際の大きな要因です。特に,近年,若年層を中心に柔らかいものが好まれるようになっており,硬いものは敬遠される傾向にあります。食肉においても同様であり,とりわけ,老齢牛の肉は他の食肉と比べて硬く,市場における評価は低くなっています。
 一方,岡山県下では毎年1万頭の乳用雌牛が廃用になっており,加えてその枝肉単価は平成元年にs当たり906円であったものが,7年には278円と3分の1に低下しています(県営食肉市場調べ)。このことは,品質評価の低い肉が牛肉輸入自由化の,より大きな影響を受けていることを示しています。 
 そこで,乳用雌牛,特に老齢牛の市場における評価を向上させるため,その硬い肉質を改善する技術が各種試みられています。その一つに,酵素剤を利用した食肉の軟化技術があります。
 今回は,この技術の現状と最近の研究動向を紹介します。
 食肉の硬さは,大きく2つの要因によると言われています。第1は,筋肉の結合組織の量と質です。第2は,アクチンやミオシンなど筋源線維の結合量です。老齢牛肉など一般に硬くて敬遠される肉で問題とされるのは,主に前者によるものです。筋肉の結合組織を構成している主体はコラーゲンと言われるタクパク質で,コラーゲンの量は家畜の加齢に従って増加するとともに,コラーゲン分子同士の結合も強まり,その結果肉は硬くなります。そこで,こうした硬い肉を軟化させるにはこのコラーゲン分子を酵素剤などを用いて分解すれば良い訳です。現在,よく知られている酵素剤は,パパイヤから調製されるパパイン,イチジクのフィシン,パイナップルのプロメリンなど植物由来の酵素です。中でも食肉軟化剤として歴史が古いのはパパインです。
 パパインは分子量約23,000のタンパク質で,温度や pH にあまり左右されず強力にタンパク質を分解する酵素です。また,分解するタンパク質の特異性が少なく,肉に作用するとコラーゲンだけでなくアクチンやミオシンなどにも作用します。その結果,過剰に肉が分解され,かえって食肉の品質を損なうことが欠点でした。
 近年,こうしたパパインの欠点を考慮して,コラーゲンだけに強い分解作用を有する酵素の研究が進められています。その中で有望視されているのが,キウイフルーツとメロンに含まれる酵素です。これらはすでに単離精製されており,それぞれアクチニジン,ククミシンと命名されています。これらの酵素はミオシンを過度に分解することなく,コラーゲンをより分解することが確認されています。
 このようにして,酵素を利用した食肉軟化剤についてかなり以前から開発が試みられていますが,利用性に優れたものはなかなか現れていないのも実状です。その大きな原因は,酵素剤の処理方法にあります。処理方法として一般的なのは酵素液へ浸せきする方法ですが,これによると大きな肉塊では,中まで酵素が浸透せず,十分に軟化ができません。これを補うために肉塊に直接酵素液を注入する方法が検討されていますが,酵素液の均一な分散が得られず課題となっています。
 こうしたことを勘案すると,現時点で食肉の軟化に酵素剤を利用するポイントは,コラーゲンに対して,より効果を示す酵素を比較的薄い肉塊に対して利用するということでしょう。また,酵素だけでなく各種食肉軟化剤が市販されています。これらをうまく利用していけば効果的に老齢牛などの硬い肉を軟化できるものと期待されます。この点について,総合畜産センターでもこれから検討していく計画ですので,ご関心をお持ちの方は,お問い合わせ下さい。