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家畜診療日記

牛の護蹄管理

岡山西南家畜診療所  
石 田 博 孝

 動物にとって運動器は非常に大切な器官である。脚が故障すると言うのは野生動物に於いては「死」を意味するであろう。家畜に於いても健康を維持し生産力を十分に発揮することはできないだろう。
 牛の護蹄管理,削蹄は健康管理面で重要である事は誰もが解っているが簡単にできないので牛の爪は長く伸び放題、すでに変形しているのもある。
 そこで当該診療所管内の某共済組合では、家畜共済損害防止事業で数年来の課題であった繁殖和牛の削蹄をやろうと遂に決心したのである。今回削蹄実行の背景には農家の要望が大きい事、爪が伸び放題で放置されている事、農家の減少が急激で繁殖和牛の頭数がわずかになった事がある。とりあえず10頭ぐらいの牛を二日間で削蹄する計画である。
 削蹄チームは、共済組合より三名、農協より一名で全員全くの未経験である。私はこのチームに削蹄の指導を依頼され、実は削蹄の専門家ではないので少し困ったなと思いながらも心よく引受けてこの「素人削蹄丸」は出港したのです。道具は、既に農家貸出し用として購入していた牛削蹄枠、電動削蹄器、牛削蹄刀、剪鉗等である。
 ○日月○日 農家巡回、現地集合にて,いよいよ始まったのです。
 私(一応削蹄講師先生)が、現地到着時、幸運なのか不運なのか記念すべき第一号牛に選ばれた牛が、まさに削蹄枠に追い込まれようとしていた。牛としても何事か感じる所があるらしく枠に入るのを拒み抵抗している。この牛は、この農家にきて以来爪切をした事がないのだろう。四本とも見事に伸び爪先は地面より持ち上がりオランダの木ぐつを履いている様だ。まず、ナタで蹄壁の過長部分を落とすのだが何しろ未経験と不慣れがものを言い牛に響くらしい。足の保定にしても一筋縄には行かない。やっとの思いで後肢一本削蹄した所で牛としてはモウ結構だったろう。スタッフの全身から汗がふき出ている。今回は削蹄技術を何とかこの二日間で自分達のものにしなければとの思いが強く、気力が充実している。苦労しながらも二本目、三本目と削蹄作業を続けて行く。最初、削蹄刀、剪鉗の使い方もぎこちなく非常に手間取っていたが少しずつ削れ出してきた。牛は明らかにイライラ、過敏になってくる。蓄主も内心削蹄を頼んだ事を一瞬後悔したかも知れない。時間も相当経過し、やっと削蹄作業完了し牛が解放された時、ゆうに一時間を超えていた。やれやれと思ったのは牛か人間か。とりあえずこの牛さんにご苦労さんと言っておきたい。当初から予定が大幅に遅れてしまった。軽トラックに削蹄枠、道具一式積み込んで二戸目の農家へ急行する。さすがに二頭目三頭目と続けているうちに腕前があがり早くできるようになって牛に迷惑をかけない様になってきた。二日目の最後の牛を切る頃になると作業も順調になりその姿は自信にあふれていた。
 この地区で繁殖和牛を飼っているのは老令の人達ばかりなので、とても自分で削蹄とはいかない。今回、過長蹄で、非常に長い間放置されていたので十分矯正されたとは言えないが、三〜四ケ月後に再度削蹄すれば完全なものになるだろう。牛の削蹄については、その重要性が認められているにもかかかわらず牛の削蹄師が少なくて護蹄管理は一歩も二歩も遅れているのが現状である。
 わずかな頭数ではあるが、今回の挑戦は、本当に価値のあるものである。これからも、定期的に削蹄に取り組むそうで、家畜共済係頑張るの巻でした。