岡山畜産便り96年11・12月号 最近の養豚情勢とSPF豚の紹介について

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(特集)

最近の養豚情勢とSPF豚の紹介について

岡山県経済連 畜産部 
石 原 正 敬

 近年の養豚を取り巻く情勢は、国際的な市場開放の気運から先行き不透明感の濃厚な業界となり、飼育頭数並びに飼育戸数の減少が著しく進んでおり,岡山県においても平成7年度調査で100戸を下回る現状となっている。更に,世界的穀物需給の失調から穀物市場の高騰、そのことに伴う配合飼料価格の上昇による経営の圧迫。英国における狂牛病の発生、今年本国で集団発生した「O157」等、消費者の食肉に対する安全性への関心の高まりは強くなって来ています。養豚業界に限っても7月からのセーフガードの発動に見られる様に輸入豚肉の増加,南九州で猛威をふるったPEDやオーエスキーの浸潤の進行、新たな慢性疾病の浸潤、こうした情勢の中で春先から秋口までの近年に無い高豚価の持続はあったものの,先行きの不透明感は拭い切れません。養豚経営の持続のためには生産者自らの経営改善普及及び低コスト生産は言うに及びませんが、業界を取り巻く環境の変化を機敏に感知した対応を系統JAグループとして実施していく必要があり、従来の生産された豚肉を販売していくのでは無く、消費者が買ってくれる豚肉を生産して行く時代へと変化しつつある今日だと思います。国内産豚肉の中には「銘柄豚」と呼ばれる豚肉が200種類以上ありますが,品種・飼料・流通・価格等様々でその多くは地域に根差した生産から販売までの確立を目指し、そのための生産から流通・加工・販売までのシステムの確立が急務の課題となっている。
 前述したように養豚業界における慢性疾病対策は、新ワクチンおよび新抗生物質の開発はここ数年顕著に進歩しているが、新しい疾病や耐性菌の発生も出て来ており生産者の方も対応に苦慮されておられる事と存じますが、基本となるワクチネーションの順守及び水洗・消毒・温度・空調管理をより徹底する事が最大の防御対策です。国内で薬に頼らない疾病対策として、農場そのものの衛生状態を確立する手法として「SPF」と「SEW」が注目されています。ここでSEWについて簡単に概要を述べると、「分離型早期離乳法」の略ですが現在一般的な飼育方法として単一場所における一貫生産とは異なり、複数箇所で生産が行われます。SEWといっても飼育手法は3種類ありますが基本として、繁殖専門農場において子豚は、10〜18で離乳し母豚からの垂直感染による各種疾病を子豚に感染しないよう飼育管理する事です。この手法によりオーエスキー・ヘモ・TGE・マイコプラズマ・SEP等重大疾病防御が可能です。しかし、失敗例も有り,かなり緻密な計画と農場間連携が必要となります。
 さて経済連として平成7年7月より受託経営農場として新たにSPFの飼育を始めました。SPF豚はご存じの方も多いでしょうが、豚の発育の障害となり、肉質に悪影響を与える5つの病原体(マイコプラズマ肺炎、豚赤痢、萎縮性鼻炎、オーエスキー病、トキソプラズマ病)をもたない豚の事です。無菌豚という言葉がありますが、全く異なった豚であり誤解も一部消費者の間で認識されているようです。ところで、全農では既にSPF豚を農協SPF豚「健康優良豚ぴゅあ」と言う名称で販売展開しており、肉質のやわらかさを物語る繊維の細かさと筋間脂肪の均一性、肉色のよさやドリップ量の少なさなど幅広い項目において優位性が実証された豚肉として販売しています。経済連としても消費者の健康志向が定着化する中で、安全性を求める声に応えた豚肉の生産農場としての位置付けで実施しています。
 今回導入した種豚は、全農の系統造成豚から作出されたSPF豚です。母豚は原種豚場(GP種豚場)として岩手県にある全農東日本原種豚場で生産されたものを、F−1♀生産農場である愛媛県経済連広見増殖センター及び、長野県農協直販KK・SPF種豚センターで生産されたLWを導入し、雄豚は全農東日本原種豚場から直接導入しています。農場の規模は母豚300頭の一貫経営農場とし、年間6,000頭の肉豚生産農場を計画しています。雄豚は常時15頭程度とし不足部分については、AIを活用した低コスト生産を実施しています。農場の衛生管理については野外獣の侵入を防ぐためフェンスで農場の外周を包囲し、外部機材の搬入は燻蒸の実施、人間の出入りは更衣・シャワーの義務付けを行っているため、フェンス内作業とフェンス外作業との連携は難しく、通常のコンベ農場よりリスクの発生が多く作業効率は低下します。農場の生産指数および枝肉格付け率については、立ち上がりの現状であるため正確な数値が把握出来ずご報告出来ませんが、発育成績は良く平均より2週間程度早く出荷されると思います。生産効率の向上は期待出来るもののコンベからの切り替えは、投下資本の拡大と資金繰りの対応上から非常に難しいと思われますが、新規に生産農場を新設する場合SPF豚への取り組みも検討のひとつとして考慮すべき手法だと考えられます。
 生産されたSPF豚肉の脂質は良好で、肉質についても豚肉特有のくさみが少なく、しゃぶしゃぶに使用すると,あくの出も少なくやわらかい一味違った食味があると思います。SPF豚肉の購入はお近くのA−COOP店でお買い求め下さい。