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家畜診療日記

O−157と子牛の下痢症について

岡山西部家畜診療所 阿新支所
主幹 豊 田 幸 晴

 O−157。この言葉の意味を知っていた人は,限られた専門家のみで大半の人は知らなかったと思います。ところが,昨年小学生はもちろん,保育所の子どもたちでさえその意味を知るところとなりました。
 ところで,O−157は大腸菌の一種であり,人畜共通に感染する細菌です。細菌学の教科書をひもといてみると,大腸菌はグラム陰性,運動性または非運動性の通性嫌気性小桿菌であると記載されています。以下教科書に従って解説すると,病原性大腸菌は病原性を示す外来性の大腸菌で腸管に常在する正常大腸菌とは区別されています。病原性大腸菌は,大きく分けて4つに分類されます。毒素原性大腸菌,組織侵入性大腸菌,病原血清型大腸菌,腸管出血性大腸菌で,O−157は腸管出血性大腸菌に分類されています。
 大腸菌,下痢ということで私たちの頭にすぐ浮かんでくるのは,子牛の下痢いわゆる白痢です。O−157が春から秋にかけて猛威をふるったのに対して,子牛の白痢は冬に多発する傾向にあります。子牛の白痢の原因は前記の分類でいうと毒素原性大腸菌がその主体をなしており,O−157がVERO毒素を産生するのに対して,易熱性と耐熱性のエンテロトキシンを産生して下痢を発症させます。O−157ほど猛威をふるうことはないですが,多頭化した畜舎では1頭の子牛が白痢に罹ると同令の子牛が次々と発病するのは,よくみうけられます。冬場の発病が多く,生後日齢が早いほどその症状は重篤となりやすく,また寒冷地ほど発症子牛は寒冷感作をうけ衰弱しやすいようです。
 一般に細菌が感染して病気に罹る場合,3つの条件が整わなければ感染は成立しません。まず,感染源があること,この場合病原性大腸菌になるわけですが,その存在があり,それが感染経路にはいっていくこと,そして感染の場で増殖してはじめて病原性を発揮するのです。大腸菌の場合,経口感染であり小腸に定着して増殖し病原性をもち,下痢を発症させます。マスコミのニュース報道でしきりに言われているのは,給食室の改善と食材の加熱調理です。給食室の衛生を保ち食材を加熱することで,感染源を絶つことに重点がおかれているようです。ちなみに,大腸菌は熱に弱く75℃以上になると死滅します。
 私たちの側でこのことを考えると,やはり牛舎の衛生面に留意していくことでしょう。新生子牛の場合,感染症には弱いので,できるだけ感染源を断ってやることが大切です。そのためには,敷料をこまめに換えてやること,定期的に消毒を行ってやることが大切です。この場合,消毒剤の選択も大事ですが,消毒剤を溶かす水の温度も重要で,温度が高い程消毒効果はあがります。
 また,不幸にして病原性大腸菌が小腸内にはいってきても,それが増殖しなければ発病はしないので,子牛の免疫力を高めておく必要があります。それには,いろいろな方法があると思いますが,一番重要なことは分娩後できるだけ早く,そしてたくさんの初乳を飲ませることです。
 今,まさに白痢の季節です。細菌感染は先にも述べたように3つの条件を満たさない限り成立しません。そのいずれかを防いでやれば感染は成立しないわけです。どうかその事に留意されて,きめ細かい飼養管理を行って白痢の季節を無事にのりきって下さい。