岡山畜産便り97年3月号 家畜診療日記

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家畜診療日記

津山家畜診療所 所長 奥 山 琢 之

 最近,畜産をとりまく状況は大変厳しく,酪農家,和牛農家とも大型,小型を問はず廃業が続出している状態であります。理由は皆様御存知の通り儲からなくなってきているからです。最近までの経営指導では第一に生産コストの低減が叫ばれておりました。今もその必要性に変わりはありません。
 現在,酪農経営において生産コストの低減は最終の段階にあると思われます。
 そこで我々NOSAI獣医師の考える生産コスト低減について考えてみたいと思います。
 1番の方法は,牛を健康で,今までよりも一産長く搾る事であります。この為,NOSAIの家畜診療所は,関係諸団体と協力し損害防止事業に取組んでおります。津山家畜診療所においても,事業の一環として削蹄事業に取り組んでまいりました。削蹄師の斡旋,最新式削蹄枠,電動削蹄器の貸出し,削蹄講習会の開催と活動しています。「岡山県装削蹄師会においても新規認定削蹄師の育成,削蹄講習会の開催を実施し,削蹄の啓蒙に努めております。」現在,岡山県において乳牛の共済廃用事故の第1位は関節炎であります。削蹄により関節炎を減らす事は,生産コストの低減につながると考えます。
 NOSAIの家畜臨床研修所の大竹所長も関節炎と削蹄の因果関係を研究し,次の様に話しております。
 「関節炎(飛節周囲炎)で廃用となった乳牛の後肢蹄を調査したところ,過長変形蹄や蹄病を伴っており,外観で異常が不明瞭なものでも,脱蹄すると全頭の蹄内部で左右両蹄底に対称的に潰瘍が生じていることが判明しました。」乳牛の蹄は1カ月に6oも伸びますが,過長変形蹄になっているにもかかわらず,削蹄が満足に実施されなければ,土踏まずは消失し蹄の後部で体重を支えるようになります。その結果蹄球部は傷つき,ダメージは蹄内部にまで波及します。そして起臥に難渋をきたし,飛節部が牛床との打撲や擦過で大きく腫れて関節炎になる訳です。持続的な疼痛ストレスは食欲や泌乳量,BCSや受胎率を低下させます。このように発症すれば限りなく治り難い関節炎には予防が重要です。予防の第一の方法としては,6カ月間隔での削蹄により土踏まずを作ってやることです。そうすれば悩みは解消するのではないでしょうか」以上の様に削蹄と,関節炎や繁殖障害の因果関係は大変深いものがあります。
 皆様方の中には少々蹄が伸びているとか,飛節が腫れていることを,さほど気にとめない方があると思いますが,これが大きな盲点であります。
 牛は起立,歩行する度に足の痛みに耐えているのです。昔から「手痛は太り足痛は痩せる」と言われるとおり生産性の低下につながってきます。そこで削蹄することにより,この苦痛を除くことが生産性の向上につながり,牛の長持ち,酪農経営安定になると確信します。
 以上の様に削蹄の重要性を認識し「一産の長持」に心掛けて頂きたいと思います。