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「家畜診療日記」

農業共済連勝英家畜診療所

主任 畦 崎 正 典

 近年,酪農情勢は乳価の低迷等大変厳しいものとなっており,低コスト・省力化の一つとして,フリーストール・フリーバーンといった飼養形態の酪農家が増えてきています。我が勝英家畜診療所管内においても8戸の酪農家がこの様な形態をとっております。フリーストールの様な飼養形態で多発する病気としては,消化器病(第四胃変位,肝機能障害等),乳房炎,及び産後起立不能症などがありますが,これらの病気に加え重要なのが肢蹄疾患であると思われます。
 肢蹄疾患といってもフリーストールのような牛が自由に運動できるような牛舎においては,飛節周囲炎等のいわゆる関節炎は少なく,牛床における滑走などの外的要因による事故(脱臼,骨折,筋断裂)が多発しています。また蹄病においては蹄球部及び蹄底部の炎症・趾間皮膚炎等も多く認められます。
 このような疾患により歩行困難を呈した牛は,飲水,採食量が減少し常時ストレスが加わる事により,乳量の低下がみられ,そればかりでなく繊維不足から第四胃変位といった消化器病にまで移行する恐れがあると思われます。  これは私の担当する農家の診療依頼での会話ですが,「急に牛がびっこをひいて乳量が下がったんじゃけど。」「ほんなら診療の最後に行って治療するけえ。」診療に行き蹄病の治療を行い,次の日牛の状態を聞くと,「歩き方もようなって乳量ももどった。」とのこと。この様に歩行異常を改善させてやると乳量の回復が速やかに行われる。これはフリーストール牛舎では,歩行の異常は繋留方式の牛舎に比べミルキングパーラーへの移動等があり発見が早く,そのため早期の治療が行えるためと考えられます。
 削蹄については繋留方式においてでも同じですが年2回実施することが望ましく,実施にあたっては特に過削蹄に注意するべきでしょう。これは私の失敗談でありますが,蹄病処置のとき蹄尖部より出血,「先生つみすぎじゃ。血がでようるが。」「このくらいの出血ならせわあねえ。」次の日「先生よけいひどうなったで。」実際,繋牛舎ではそれほどのことではなくても,フリーストールでは運動量が多い為かなりの負担となるケースが多いのです。このあと石膏ギブスで蹄を保護するなどの治療を行い,歩行状態が良くなるまでかなりの時間がかかり苦労した記憶があります。
 これも私の経験不足からであり,この管内に来るまで,特にフリーストールという飼養形態の酪農家が出現するまでは,蹄病は削蹄師まかせであり現在になって反省している次第です。
 現在酪農家の飼養形態は繋留方式のものがまだまだ主であり,フリーストール形式に比べると肢蹄疾患の影響が発現しにくい傾向にあります。そのためどうしても発見が遅くなったり,また発見してもそれがすぐに乳量等へ影響しないため,この病気を軽視する傾向があると思われます。それが現在も死廃事故の上位からいわゆる関節炎という病気が無くならない原因と考えられます。
 蹄病に起因して起立困難等の症状から関節炎へと移行するものも少なくないと思われます。これらのことが日々,徐々にストレス等となって採食量が減少,乳量が減少し,ひいては牛自体の寿命を縮めてしまうのです。この様なことからも酪農経営において肢蹄疾患は重要な病気であり「病は気から」では無く「病は足から」だと考え,これからも治療していきたいと思います。酪農家の皆様も牛の足痛にもっと神経質になって早期発見に努めてください。足痛を減らして経営安定につなげていきましょう。