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〔声〕

「とうび堆肥マップ」作成について

  東備地方振興局農林事業部畜産係

 地球温暖化,砂漠化,湖沼の富栄養価や地下水の汚染等地球環境問題に対する関心が高まり,畜産が引き起こす悪臭や水質汚濁は,重要な社会問題となりつつある。このような記述を目にするにつけ,何ともやり切れない気持ちになる。一方,世界一の食糧の純輸入国=日本,21世紀食糧需給の行方は??? いずれも,当然の事ながら関心を持たざるを得ない重要な課題である。
 農業と畜産の関連は,家畜の歴史とは違い昭和初期に始まる。当時の農業恐慌を契機に政府は,農業経営のなかに耕種部門と並べて複合的に畜産をとり入れ,畜産の発展と農業経営の安定を図る政策,いわゆる有畜農業を推進した。この有畜農業は,日本農業の歴史的な転換点のひとつといわれた。しかし,第二次世界大戦直後は,飼料が枯渇し飼養頭羽数は激減した。戦後,動物性タンパク質の供給,農業経営の再建,飼料不足の解消等目的に畜産復興策がとられた。
 農業基本法(昭和36年6月1日・法127)が制定された。その附則の最後「農業の向かうべきみちを明らかにし,農業に関する政策の目標を示すためこの法律を制定する」その(国の施策)第2条第1号「……等農業生産の選択的拡大を図ること」として,畜産が位置づけられた。その後の経済発展,畜産物の消費拡大等により飛躍的な拡大(規模拡大)を遂げ,現在,農業粗生産額の1/3を占めるまでになっている。
 しかしながら,だれもが想像したことではあろうが,国土の制約もあり土地立脚型の畜産経営とはなりがたく,飼料の自給確保は困難な課題となり,加えて冒頭の環境汚染問題は,全国的に深刻な課題となっている。毎日,家畜は体重の1/10程度の糞と尿を排泄する。コストを無視すれば,その処理技術は確立している。しかし,現実的にそのことは不可能に近い。
 計算上から,総ての家畜排泄物の成分と化学肥料の消費量は,ほぼ拮抗すると言われている。今,化学肥料主体の使用による「土壌の疲弊」がいわれ,消費者は,有機無(減)農薬栽培を求めている。この状況を打開する有効な方策はないものか? 関係者集い,試行錯誤の結果,先ず畜産農家の堆肥等処理実態を調査し,家畜堆肥の供給可否と成分検査を実施する。さらに,幅広く利活用出来る方法とし,堆肥マップ作りをする事とした。タイミング良く九州・大分の事例も参考にし,何とか作成配付にこぎつけた。ともすればマイナスイメージの家畜堆肥をむしろ利活用しプラスにする事こそ,狙いである。以下,宣伝文を掲載『近年,畜産経営は規模拡大が進み,混住化の進展ともあいまって,家畜ふん尿に起因する環境汚染問題は深刻化しています。一方,ふん尿の処理方法も研究され,良質の堆肥化により有機栽培や有機無農薬栽培への利用がすすめられる等,家畜堆肥の有効利用は極めて重要となっています。家畜堆肥の施用効果については理解されているものの,その肥料的成分や生産・利活用の実態などについては畜産農家と利用する耕種農家双方にとって関心のあるところです。
 この度,管内畜産農家(酪農,肉用牛,養豚,養鶏)36戸を対象に「堆肥処理実態調査」を実施し,28戸より回答を得ました。そのうち,15戸で生産された堆肥を収集し成分分析(窒素,りん,カリウム,水分等)を行い,堆肥の処理実態と併せ整理分析した結果をもとに,関係機関,団体の協力により「とうび堆肥マップ」を作成しました。
 このマップは,耕種農家や家庭菜園等で有効に利用していただき「土づくり」の積極的推進をねらいにしております。
 なお,マップには供給出来る畜産農家を各畜種合わせて16戸掲載しており,20,000部を作成し,管内各市町・農業協同組合等の協力のもとに耕種農家等へ配付する予定でありますのでお知らせします。』
 本件について,マスコミ数社に取り上げて頂き,現在若干の問い合わせもある。今回の「小さな試み」が「大きな反響」となる事を期待する昨今である。

参考文献:「新畜産ハンドブック・講談社」より一部引用させて頂きました。