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〔畜産センター便り〕

「イギリス黒豚導入とその後」

岡山県総合畜産センター    
養豚科 技師 関   哲 生

 今年3月にイギリスからやってきたバークシャー種豚は,このほど長期にわたる検疫を無事終えました。現在では月齢は10ヶ月を越え,雄(2頭)の体重は160s前後で,がっしりとした雄らしい体格になってきました。一方,雌(4頭)は体重130sほどになり,丸みを帯びてきました。種付けも終了し,9月下旬には初子の誕生を楽しみにしています。
これらの子豚は,年明けには種子豚として県内の養豚農家のみなさんに供給できそうです。
 また,当センターで取り組んでいる「豚凍結精液の実用化」の一環として,導入した雄豚から採取した精液の凍結保存を試みたところ,耐凍性に優れていることがわかり,今後の利用に対しても大きく期待が膨らんできました。

◇バークシャー導入のいきさつ
 バークシャー種は18世紀後半にイギリスで改良されつくられました。肉質はきめが細かく,やわらかい上に歯ごたえがあり,脂肪は白くてほどよくしまっており,独特の風味があります。20世紀前半までは肉豚の中心的存在でありましたが,その後,肉需要が増大したことで大型品種による効率的な生産が求められるようになってきました。
 日本では,近年バークシャーの高品位な肉質が注目されて,一般豚肉の倍近い値段で売られているにもかかわらず,品数が足りなくなるほど消費者の人気が高まっています。
 岡山県でも増え続ける安価な輸入豚肉に対抗して差別化できる地域特産豚肉をつくろうと,6年前から銘柄豚「おかやま黒豚」の生産に取り組んでまいりました。しかし,血縁が閉鎖的になってきたことで,繁殖性や肉質に影響が出始めました。そこで,バークシャーの原産国であるイギリスからより優秀な種豚を導入することになりました。

◇イギリスにおけるバークシャーの生産
 イギリスは畜産の歴史が古い国で,永い伝統の中で優れた育種改良技術を培ってきました。バークシャーの生産者(ブリーダー)たちも例外でなく,それぞれ独自の目標をもって改良しています。従って,同じバークシャーでも,胴伸びがよいとか,乳器がしっかりしている,あるいは肢蹄が強いなど農場によって特徴が表れています。
 現在,イギリスバークシャーは雄で5系統,雌で9系統が認定されています。命名は雄の子豚には父親の系統名を,雌には母親の系統名を引き継がせます。また,名前の頭に生産農場名や土地名を付けて個体の名号とするので,同じ系統名が付いていても血縁が薄く,資質が全く違うこともあります。
 生産されたバークシャーは,年に一度の全英共進会ともいえるロイヤルショーや各地域で開催される共進会に出展されます。会場では生産者同士の情報交換が行われ,出展した豚の評価とともに以後の改良方針に役立てられます。こうして種のレベルアップが図られています。

◇導入したバークシャーの特徴
 導入した6頭のバークシャーは胴伸びがよく,肘張りが大きいことが特徴です。また,雌の乳器は大きくはっきりしています。1ヶ月以上の検疫期間中狭い柵に閉じこめられていたにもかかわらず,おとなしくて人なつっこい行動からは,幼豚時のイギリスでの管理の良さが感じられます。これらの母親はいずれも9〜12頭の子豚を生んでおり,優秀な繁殖能力にも大いに期待しています。

◇黒豚の産地づくりに向けて
 今年度も6頭の導入を計画し,6月末から7月上旬にかけてイギリスでの選畜を終えました。これらの豚は,10月中旬に岡山に到着する予定です。
 当センターでは,イギリス導入豚を基礎として,飼いやすく質のそろった黒豚の増殖,供給に努めていくこととしております。また,限られた資源を有効に活用するため閉鎖的にならないように血縁を管理しながら,県内養豚農家のみなさんの期待に応えてゆきたいと考えています。さらに,現在研究をすすめている精液の凍結保存を活用した雄豚の利用も検討しています。
 銘柄豚として販路を広げるためには,定質定量生産が不可欠です。それには飼養頭数の拡大と,農家間の横の連携が必要であります。純粋種を使った「おかやま黒豚」の名が全国に知れわたり,桃やマスカットに並んで岡山に黒豚ありといわれるよう養豚農家のみなさんとがんばってゆきたいと思っています。