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〔病鑑便り〕

「最近みられた成牛の肺炎」

岡山県家畜病性鑑定所 橋 本 尚 美

 成牛は子牛に比べて微生物に対する抵抗力が強く,肺炎になりにくいとされますが,成牛においても輸送,妊娠,泌乳などのストレスで免疫能や体力が低下していると肺炎を起こします。そして肺炎牛は大量に病原体をまき散らし,集団的な発生になることもあります。成牛の肺炎は乳量低下,治療による乳の出荷制限,増体の低下,流産などにつながり,生産上の被害は甚大になります。そこで最近みられた成牛の肺炎を紹介して今後の参考にしていただきたいと思います。

T RSウイルス感染症

事例1:
平成5年10月に成牛約50頭を飼育する酪農家で,導入牛2頭が呼吸器症状を示しました。その後同居牛に伝搬し,計21頭が発症し,4頭が死亡しました。

事例2:平成9年6月に200頭飼育する肥育農家で,導入後間もない9〜10ヶ月齢の1頭が発熱,咳,呼吸速迫,鼻水,食欲・元気の低下を呈し,その後同一ロット6頭が発症し,2頭が死亡しました。
 これら2事例は病性鑑定の結果いずれもRSウイルス感染症と診断されました。本症は年間を通して発生しますが,換気不良となりやすい集団飼育,冬の舎飼いなどで発生しやすく,重症となる傾向があります。本疾病はワクチンで予防ができます。

U パストレラ・マルトシダ感染症とヘモフィルス・ソムナス感染症

事例3:
平成9年6月に肥育農家で6〜8ヶ月齢の導入牛を発端に同居牛約40頭に発熱,咳,水様〜濃性の鼻水,食欲・元気の低下が認められました。原因はパストレラ・マルトシダ感染症でした。

事例4:平成9年6月に肥育農家で導入牛の1頭が導入後9日目に呼吸器症状を示して死亡しました。原因はRSウイルスとヘモフィルス・ソムナスとの合併症でした。
 パストレラ・マルトシダとヘモフィルス・ソムナスは細菌です。これらは単独でも肺炎を引き起こしますが,事例4のようにRSウイルス感染症などのウイルス性肺炎にかかったとき,二次感染を起こして症状を悪化させることもあります。発病には飼育環境の悪化,輸送ストレスなどが引き金となります。ヘモフィルス・ソムナスは肺炎だけでなく,牛が急死する髄膜脳炎の原因菌でワクチンが開発されていますが,パストレラ・マルトシダについては残念ながらワクチンがありません。

V 非定型間質性肺炎

事例5:
平成9年6月に5ヶ月齢のF1牛が突発的に呼吸困難を起こし,翌日死亡しました。病性鑑定の結果,非定型間質性肺炎と診断されました。
 この病気は微生物が関与しない非伝染性の肺炎で,原因や機序は解明されていませんが,牧草中の物質が第一胃内で異常発酵することも原因の一つではないかとされています。

W 対策と予防

◆計画的なワクチン接種
:飼育牛には毎年計画的にワクチン接種をします。

◆導入牛の隔離:紹介したRSウイルス感染症,ヘモフィルス・ソムナス感染症やパストレラ・マルトシダ感染症の事例はいずれも,はじめに導入牛が発症し,その後周囲の牛に蔓延させてしまった例です。したがって導入後1週間はできるだけ他の牛と離れたところで飼い,異常が現れないことを確認してから同居させます。

◆良好な飼育環境づくり:良好な環境での飼育は牛の抵抗力を高めます。換気不良は病原体の蔓延を助長します。

◆病性鑑定の実施:早期に病性鑑定を実施し,その結果に基づき適切な治療や対策を講じることが被害を最小限にします。

これらのことはどんな病気にも通じることです。再度,飼育管理方法を点検してみて下さい。