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〔広場〕

「碁盤乗り」への挑戦

岡山県立新見北高等学校    
生物生産科 植 田 幹 隆

 かつて和牛が役牛として使われていた頃,細い手綱一本で大きな牛を自由自在に動かす調教技術が開発されました。「シッ」とか「バー」などといった声をかけながら手綱に波を送ることで,牛をまっすぐ歩かせたり,止まらせたりさせる・・・これがいわゆる基礎調教です。
 実際の使役や管理の点からはこの基礎調教だけで十分なのですが,さらに人畜一体の境地にまで牛を調教したいと考えた人がいました。
 大正10年から昭和10年にかけて,岡山県新見市の千屋種畜場(今はありません)に勤務されていた,佐野民三郎という方です。この方は「牛を碁盤の上に乗せる」などの,いわゆる高等調教をつくり出されたのです。
 高等調教は千屋種畜場の名物となり,昭和22年には天皇陛下がご覧になりました。さらにNHKテレビでも紹介され全国的に普及し,昭和20年代から30年代にかけては,日本中あちこちで行われていたそうです。
 ところが耕耘機が普及するにつれて使役牛の必要がなくなり,それとともに和牛の調教も忘れ去られようとしているのです。今日実際に「碁盤乗り」を行える方は,県内はもちろん,近県を見渡しても数えるほどしかいらっしゃらないという状況なのです。
 さて,本校はそうした高等調教の故郷である新見市に位置し,8頭の和牛を飼育しています。「この牛を用いて地元の伝統芸能を復活させることが出来ないだろうか?!」この提案に有志生徒達が賛同してくれて,放課後毎日の練習が始まりました。初めは大きな板の上に乗せ,徐々に小さく,高さも上げていきました。そして半年後,ついに牛が碁盤の上に乗ったのです。この「碁盤乗り」は本校の70周年記念文化祭においても実演され,大勢の見守るなか見事に成功し,翌日のOHKテレビ・ニュースで紹介されました。