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〔広場〕

腸管出血性大腸菌感染症と畜産食品

岡山県健康づくり財団     
環境部次長 藤 原 三 男

 昨年5月,岡山県邑久町の小学校と幼稚園に学校給食を原因とするO−157による食中毒の発生があり,死亡を伴う多くの患者が出て以来,爆発的に全国集団発生があったことは記憶に新しいところである。
 この食中毒の原因の多くは,畜産食品が占めていると言うことなので,この実態について述べてみたい。

1.動物における腸管出血性大腸菌(EHEC)保有状況
 1990年前半の調査では,表1に示すように牛を中心にかなり保有していることが明らかとなった。特に,わが国では,中沢によると下痢症状を示した子牛22/161例(13.7%),宮尾によると畜場に搬入された牛37/210例(17.6%)からEHECが分離されたと言う。

表1.食肉・生乳からのEHEC検出率

対象
報告国
検出率(%)
対象
報告国
検出率(%)
O157
その他
O157
その他
牛肉**
日  本
豚 肉
オランダ
2.1
米  国
0.7〜3.8
NT*
タ   イ
6.9
カ ナ ダ
29.4
NT
鶏 肉
日  本
英   国
12.7
米  国
1.5
NT
オランダ
2.0
カ ナ ダ
ド イ ツ
2.8
NT
英   国
ブラジル
7.1
オランダ
7.8
タ   イ
8.6
ブラジル
9.5
エジプト
6.0
NT
エジプト
4.0
NT
豚 肉
日  本
生 乳
ド イ ツ
9.6
NT
米  国
1.2
NT
英   国
0.7
NT
カ ナ ダ
7.1
3.8
エジプト
6.0
NT
*NT*:未検討,**牛挽肉を含む(伊藤1997)

2.牛直腸便からのEHEC検出状況
 わが国における1994年及び1996年の調査によると,表2のように正常便と下痢便のいづれからもかなり高率にEHECが分離され,国内牛にも広く蔓延していることが分かった。

表2.牛直腸便からのEHEC検出状況

便性状
検体数
EHEC陽性検体数(%)
O血液型(検体数)
正常便
105
22(21.0)

O2(1),O16(1),O70(1),O74(3),O132(2),O145(6),

O153(1),その他(6)

下痢または軟便
105
15(14.3)
O16(3),O74(1),O84(1),145(3),O146(1),O157(3),その他(3)
210
37(17.6)
 

3.食肉・生乳からのEHEC検出状況
 家畜が本菌を保有していることから食肉を中心に本菌の汚染状況を検査した結果,表3に示すようにかなりの率で汚染されている。そして,発生の高い国ほど汚染率が高い。

表3.動物におけるEHECの保菌率

対 象
報告国
保菌率(%)
対 象
報告国
保菌率(%)
O157
その他*
O157
その他*
ウシ
日  本
0.2〜3.4
1.3〜48.9
ヤ  ギ
日  本
米  国
0.2〜6.8
8〜19
ド イ ツ
カ ナ ダ
3.0
3.7〜24.7
ヒ ツ ジ
米  国
英   国
1.0
NT**
ド イ ツ
ド イ ツ
0.9
3〜26.2
ニワトリ
ド イ ツ
スペイン
1.4
20.2〜22.5
タ   イ
タ   イ
イ  ヌ
ド イ ツ
ブタ
日  本
ネ  コ
日  本
ド イ ツ
ド イ ツ
タ   イ

4.食中毒発生及び取締り検査からのEHEC検出状況
 1996年に発生した食中毒からEHECが検出された原因食品は,おかかサラダ,かぼちゃサラダ・シーフードソース,ポテトサラダ,牛肉,牛小腸,大腸,しか肉,イエバエで,取締り検査では牛せんまい,牛レバー,牛肉切り落とし,牛ホルモン,菓子及び惣菜であった。
 以上のように,牛に起因する畜産食品が広く汚染されていることが判明し,世界各国或いは国内のいたるところで散発又は集団発生しているのが現状である。