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〔特集〕

乳用牛群検定事業の推進について

岡山県農林部畜産課

1 乳用牛群検定事業の経過
 我が国における乳用牛群検定事業は昭和49年度に乳牛個体能力の把握と飼養管理の改善による経営の合理化を図るために,「乳用牛群改良推進事業」としてスタートし,20年余りが経過しました。
 牛群検定事業は,酪農の生産現場において毎日の乳量をはじめ飼料給与量,飼料単価等のデータを検定員の立会いのもとに牛群,個体毎に記録し,これを集計とりまとめた後,農家に検定成績表としてフィードバックします。これを受けた農家が,これらのデーターを活用して飼料給与をはじめ,搾乳衛生管理,繁殖管理等のチェックを行い,乳牛個体能力の向上と飼養管理等の改善により,高品質化と生産コストの低減を図り,生産性の高い酪農経営を目指す事業です。
 参加県30県,検定頭数約96,000頭で開始された牛群検定事業も,年を追って参加県,検定頭数が増加し,同事業も昭和59年度及び平成2年度に大きな見直しによる充実強化が図られ,今や46都道府県において,540,000頭の検定が実施されており,1頭当たり乳量も開始当初の1.6倍に伸びるなど酪農経営の改善に無くてはならない事業となっております。
 また,検定記録の収集処理から検定成績表の農家へのフィードバックをより正確かつ迅速に行うための,パーソナルコンピュータと電話回線を活用したオンライン化も昭和60年に3県を対象とした試験事業として開始され,今では数県を残すまでに整備されています。
 爾来,システムの改善を重ねながら充実が図られ,今日データー収集及び情報提供に大きな役割を担っております。
 また,より一層の情報処理の効率化を図るため,公衆回線(アナログ回線)を利用した現行のシステムは,平成11年度から,今,テレビコマーシャルでもよく耳にするISDN回線(INSネット64)へと変更されることになりました。この変更により,通信速度が一段とアップし,通信時間が短縮されるとともに,より簡易にデータの活用ができることになります。

2 岡山県における牛群検定事業
 本県においては,牛群検定事業開始当初から積極的に参加し,当初260戸2,700頭で始まりましたが,年々増加し平成9年3月31日現在で366戸,10,741頭の参加となっています。本事業への参加が,本県の酪農の振興に大きな役割を果たしたと言えます。
 特に酪農王国と言われる北海道は参加当初から高い実施率を誇り,本事業が今日の北海道酪農の力の基礎となっています。
 岡山県は,この酪農先進県である北海道を目標として牛群検定事業の推進に努めてきましたが,関係者,参加酪農家の弛まぬ努力のおかげで,1頭あたり乳量においては着実に増加し,平成5年にはホルスタイン種,ジャージー種ともに北海道を上回る成績となりました。
 しかし,参加実施率については未だ北海道を大きく下回り全国平均に近い値になっており,早急に検定の仲間を増やすことが課題となっています。
 また,本県における情報処理システムの整備については,いち早く昭和61年度から62年度にかけて,現地情報処理システム化事業により,また平成2年度から平成6年度まで乳用牛検定情報処理システム化推進事業により整備,全県オンライン化を実現しました。
 その結果,検定成績の正確かつ迅速なフィードバックが可能となり,酪農家の経営改善に大きく貢献してきたところですが,今回のISDN回線への移行により新たな整備が必要となりました。
 酪農家のニーズに即応した情報を的確に提供するためにも,新システムの整備は不可欠なものであり,補助事業等を活用した整備について検討していきたいと考えております。

3 牛群検定事業の今後の推進
 北海道はもちろん,世界の酪農先進国は牛群検定事業を軸とした経営の改善と乳用牛改良を積極的に進めています。
 主要な国の検定牛率を見てみますと,カナダ63%,デンマーク88%,オランダ80%,ニュージーランド87%等と高い率を示しており,1,000万頭近い乳用牛が飼育されるアメリカにおいても,48%の実施率となっており,牛群検定事業をいかに重視しているかが伺われます。
 現在,家畜改良事業団から牛群検定で提供されている情報も毎月の検定成績から牛群改良情報まで,9項目にわたり,牛群の繁殖・飼養管理をはじめ,種雄牛の選定,淘汰まで幅広い活用が可能となっています。
 県としても,この検定情報を酪農家の経営改善はもとより関係団体の技術者の指導等により有効に活用いただくために,県総合畜産センターに設置した「牛群検定情報分析センター」からの情報提供,さらに各家畜保健衛生所分析指導員による農家指導も行っています。
 牛群検定参加牛と非検定牛の1頭当たり年間乳量差は実に2,200s近くの差となりました。事業開始当初からの検定参加牛と非検定牛との産乳量の差の推移を見ると年々拡大する傾向にあります。
 牛群検定の実施には,多くの人員,時間及び経費が必要ですが,経営改善の第1歩は,酪農経営の直接の担い手である乳牛個体の能力を正確に把握することから始まります。
 国をはじめ,家畜改良事業団においては,普及率が伸び悩む中で牛群検定をより簡易で身近なものにするために,検定手法の簡易化,泌乳データー自動収集システムの開発等をはじめ,データー収集用携帯機器の小型,軽量化,より使いやすい乳量計測装置の開発等を進めており,本県においてもモデル農家をお願いして推進に協力しているところです。
 また,検定成績表を有効に活用いただくために,家畜改良事業団・家畜改良アドバイザー等技術者による地域研修を行っております。
 牛が発信したメッセージ・情報を酪農家がより的確に受け止め,経営の改善に反映される一助となることが牛群検定の使命と考えられます。
 急激な国際化・自由化の進展の中でより足腰の強い,ゆとりの持てる,そして儲かる酪農経営を実現するため,牛群検定の継続実施と検定成績の一層の活用,さらには非検定農家の一戸でも多くの参加をお願いします。