ホーム岡山畜産便り > 岡山畜産便り1998年8月号 > 「牛体毛刈で猛熱ストレスの軽減」

〔共済連便り〕

「牛体毛刈で猛熱ストレスの軽減」

岡山南部家畜診療所   
次長 沖 田 詞 延

 大抵の動物たちは春から初夏にかけて毛替えをします。それによって真夏を快適に過ごすことが出来るのです。
 さて,牛の場合は平均24℃以上になると暑熱ストレスを受けると言われています。毎年,特に猛暑干天の厳しい年ほど熱射病対策が話題になります。熱射病とは通風,換気の悪い牛舎で音頭,湿度が厳しく上昇してサウナ風呂の様な状態になり,牛体内に熱がたまった(うつ熱)状態のことを言います。また放牧場や遮光施設のない場所で直接日光に暴露されて発症するのを日射病と言います。
 岡山県における熱射病による死廃状況はどうでしょうか。過去5年間のNOSAI岡山での調査です。 

 平成5年:死廃牛 28頭(内,死亡12頭)
 平成6年:死廃牛228頭(内,死亡86頭)
 平成7年:死廃牛121頭(内,死亡51頭)
 平成8年:死廃牛116頭(内,死亡54頭)
 平成9年:死廃牛 87頭(内,死亡40頭) 

 猛暑干天の厳しい年ほど経済的損失は著しいものがあります。
 大半の畜産農家の方々は平素から夏場に強い牛を作るため,過肥や削痩にならない様,場合によっては夏場のお産を避けたり,多量によだれを垂らし,肩で息をしている状態を発見すると早急に患者を通風の良い涼しい場所へ移動するか,送風などでうつ熱を除去してやる等の管理工夫をされております。やはり「涼しくしてやる」ことが一番重要なことでしょう。
 防夏対策の一つとして,兵庫県(NOSAI兵庫)の家畜診療所の先生方によって研究された「乳牛の暑熱対策としての牛体毛刈の効果」の一部を紹介しましょう。
 それは高音時に全蒸散量の6割を占めると言われている皮膚表面からの熱放散を促進させて暑熱ストレスの軽減,乳量,乳成分の維持効果を狙ったもので,肢蹄部を除く全身の毛を牛用大型バリカンで1oの長さに毛刈をするというものです。この方法の防暑効果を検討した結果,「毛刈をした牛の体温は毛刈しなかった牛よりも低く,翌朝までの高体温の持続も少なかった。熱射病の発症は毛刈した牛が206頭中2頭(0.9%),毛刈をしなかった牛は436頭中10頭(2.2%)で,毛刈した牛の方が発症率が低かった。また乳量の減少は毛刈した牛群の方が軽度で,乳蛋白質,無脂固形率も毛刈した牛群の方が良かった。特に高泌乳牛では比較の差は大きかった。」といった内容を報告されています。 

 その他の暑熱対策として。
 1)畜舎周囲の日陰づくり(寒冷紗等)
 2)屋根の散水,石灰塗布,断熱材等
 3)牛舎内の通風(窓の開放,扇風機等)
 4)冷風装置(クーラー,細霧機等) 

 外にも夜間放牧などの方法もありますが,牛たちにとって灼熱地獄と呼ばれている梅雨明けから台風シーズンまでの約100日間を,これらの暑熱対策に加えて安価で容易に出来る牛体全身毛刈によって,さらに暑熱ストレスから解放してやりましょう。今からでも充分間に合うでしょう。