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「おかやま農業のこころざし」

岡山県副知事 野平 匡邦

 岡山県の財政難は全国銘柄になったが,もっと有名なのがある。私が同窓会で岡山県勤務を紹介すると,「岡山って,美術館で有名な倉敷があるところよね」と知識と親近感を表現したつもりの友人,特に女性が異口同音に発したのが,「お土産はマスカット!」。圧倒的人気だ。
 本県の全国順位は20位が標準だ。47都道府県の,中の上。たとえば国勢調査人口は,他県の大変動を尻目に大正時代以降ずっと19位から21位。過去16回の国調順位の平均値は19.9位。県民人口は増加中で200万人目前だが,順位は昭和50年19位のピークから20位,21位と降下中。
 農業は実力派だ。先進農業県,機械化農業の雄県から昭和30年代に倉敷市水島工業地帯を中心に工業県に脱皮後わずか40年の農業県──これが農業関係者の認識。古墳時代の吉備王朝以来の豊かな県土は気候温暖で,生産できない農産物はない。降雨量1_以下の日数が日本一の“晴れの国おかやま”は,地震も災害も極めて少ない。一級河川三本が水源から河口までほぼ均等に県内を流れる。
 農産品の日本一を探すと,マスカット等の温室ブドウ,ピオーネ,ベリーA,白桃,愛宕梨,ヤーリー(鴨梨),バスクラサン(フランス梨),ジャージー牛(乳)。かたや工業製品の日本一は,学生服(男女),制服(男),作業用衣服,地下足袋,花むしろ(い草産業の遺産),ござ,麦わら・パナマ帽子,耐火レンガ,生石灰,活性炭,形鋼,塩(製塩会社全国7社のうち2社が岡山)。農業も工業も,需要減少気味の伝統産業や少量特殊需要分野で日本一だと知れる。地味だが玄人筋に定評のある頑張り屋なのだ。
 行政体質の特性で,農業県から工業県への脱皮に即応した機構改革は遅れた。農地転用以外の人材転用や政策転換等の分野でも類似の規制や障害があって簡単でないが,農業改良普及機関の統廃合,畜産公社と林業公社の財政体質の抜本改善等,農林行政の行革もやる気十分だ。
 農林水産部の組織が成長停止したまま土木部に比べて相対的に肥大した結果,一人一人の職員の処遇は必ずしも恵まれないが,行革対策を含め職員は真摯で意欲も旺盛だ。この一年間,農林水産行政の手作りのヒット標語が何度も私の目に飛び込んで,爆笑や微苦笑を経験した。なかなか,元気じゃ農!(これも作品)

 @味覚認情報おかやま
 Aスポーツフェスティバル“農リンピック”(JOCの使用許可が必要か)
 B白桃の日=8月8・9・10日
 Cおかやまギフトもも供給拡大事業

 作品Cは太モモ,とも読める粋なユーモア感覚だ。上等の桃は,形も色も触感も健康な女性のお体を想像させるか。
 最後に私自身も,岡山県農林水産マンの志を発信する標語を作ってみた。

  モモもモモ スモモもモモ フトモモも
  モモ 岡山のモモ太郎達のこころざ─士

 以上は,時事通信社発行「農林経済」誌(5月11日号)に「おかやま農業のこころざし」として書いた筆者の随想だが,この中で畜産が登場するのは「畜産公社」の行革と「ジャージー牛」の項だけである。8月号に,遠く北海道の八雲町の岡山県畜産公社・桜野牧場が頑張っている報告が載っていた。筆者の担当業務上,厳しい行革・リストラの要求ばかりぶつけて畜産の世界の皆さんに対しても申し訳ないと思うが,中山場長さん以下の苦闘を想起するにつけ,岡山県の畜産に何か具体的な「ヒット作品」が欲しいと思う。全国どこの誰にでも判って貰える,そんなポピュラーな岡山県の畜産の名産品を持ちたいものだ。
 久しぶりに,地元生え抜きの農業職の農林水産部次長が誕生して,士気が上がっていると感じる。畜産一家の奮起を期待したい。