ホーム>岡山畜産便り > 岡山畜産便り1998年10月号 > 「岡山県における酪農の現況について」 |
1.はじめに
本県の酪農は,温暖な気象条件や大消費地の京阪神に近い立地条件等を生かし西日本有数の酪農県として発展してきたが,平成7年からWTO協定発効後の乳製品の関税化は乳価の低下を招き急激に酪農戸数の減少並びに生乳生産量の落ち込みをきたす等大きな影響をあたえることとなった。国際化の進展等により岡山県の酪農は転換期にさしかかったといえる。
2.酪農の現況
平成8年における乳用牛粗生産額は178億円で県内農業粗生産額の10.7%,畜産粗生産額の36.4%を占めており川上村・八束村・勝央町・奈義町・建部町・落合町・北房町・牛窓町などでは,農業粗生産額の2〜3割を占め地域の基幹農業となっている。
1)酪農戸数・頭数の推移等について
乳用牛の飼養戸数は,昭和38年の11,770戸をピークに減少を続け平成10年2月では860戸となった。特に近年は全国平均を大幅に上回る減少率となっている。乳用牛の飼養頭数,昭和60年の47,700頭をピークに減少に転じ平成10年2月では32,900頭まで落ち込んでいる。また一戸当たりの飼養頭数は,経営の規模拡大・多頭化が進んで現在は35.9頭となっている。
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3,400 |
% |
43,200 |
% |
12.7 |
% |
141 |
% |
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2,140 |
47,700 |
22.3 |
189 |
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1,200 |
▲6.3 |
37,200 |
▲3.1 |
31.0 |
3.3 |
183 |
▲1.1 |
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1,130 |
▲5.8 |
35,900 |
▲3.5 |
31.8 |
2.6 |
177 |
▲3.2 |
|
1,060 |
▲6.2 |
35,200 |
▲1.9 |
33.2 |
4.4 |
180 |
1.7 |
|
950 |
▲10.3 |
32,900 |
▲6.5 |
34.6 |
4.2 |
176 |
▲2.2 |
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860 |
▲9.5 |
30,900 |
▲6.1 |
35.9 |
3.8 |
2)生乳生産費等について
生乳100s当たり生産費は平成8年において8,629円で全国7,384円の116.8%,北海道6,499円の132.7%の水準となっているので生産費格差の縮少を図らなければならない。酪農所得は,平成2年以降子牛の販売価格の大幅な低落等から生乳販売収入の増加にもかかわらず逐年減少している。
*平成8年における北海道との生産費用の比較
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乳牛償却費 |
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流通飼料費 | 牧草放牧採草費 |
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3,118 |
482 |
3,600 |
999 |
2,976 |
1,317 |
4,317 |
3,412 |
1,163 |
8,892 |
|
(86.6) |
(13.4) |
40.5 |
11.2 |
33.5 |
14.8 |
(41.5) |
(38.4) |
(13.1) |
100 |
|
1,561 |
1,071 |
2,632 |
852 |
1,896 |
1,059 |
2,419 |
2,983 |
1,037 |
6,439 |
|
(59.3) |
(40.7) |
40.9 |
13.2 |
29.5 |
16.4 |
(37.6) |
(46.3) |
(16.1) |
100 |
3)生乳生産量等について
本県の生乳生産量は牛乳・乳製品需要の堅調な拡大を背景に順調に増加してきたが平成2年の192,075トンを境として減少の一途を辿っている。昭和54年度より計画的に生乳受給の均衡を図るため生乳の計画生産を実施してきたが,近年は酪農戸数の減少等により計画生産量を達成できない状況となっている。また平成7年より乳製品が自由化されることを受け,より生産性を向上するため酪農経営体育成強化緊急対策事業が実施され生産意欲のある経営体への生産枠の流動化が図られることとなったが,本県の場合は規模拡大者がいなく生産枠が県外へ流失する結果となっている。
*生乳受託販売数量の推移
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129,367 |
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164,055 |
生乳計画生産実施 |
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176,893 |
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182,622 |
過去最高の数量 |
平成7年度 |
166,860 |
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平成8年度 |
167,780 |
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平成9年度 |
159,625 |
*酪農経営体育成強化緊急対策事業の実施状況
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9 |
119 |
872 |
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65 |
918 |
6,197 |
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68 |
890 |
5,848 |
|
142 |
1,927 |
12,917 |
4)生乳の流通と処理について
平成8年の県内処理量は,116,875トンで生産量180,639トンの65%の割合にある。処理量の内訳は,飲用向103,836トン(89%),乳製品向10,770トン(9%),その他2,209トン(2%)となっている。生乳の移出入量は,移出量が59,805トン(移出先茨城・東京除く),移入量26,784トンで,移出先は京阪神が49,124トンで82%を占めている。また平成9年度における本会の乳業者との生乳取引状況は大手乳業者が77.7%を占めている。
*生乳取引状況
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大手乳業者5者 |
124,099 |
77.7 |
中小乳業者8者 |
7,013 |
4.4 |
農協プラント4者 |
6,537 |
4.1 |
県外乳業者9者 |
21,873 |
13.7 |
委託加工 |
102 |
0.1 |
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159,624 |
100.0 |
5)乳質改善について
新鮮で安全な牛乳・乳製品をもとめる消費者ニーズの高まりに応えるとともに県外移出の多い本県は,京阪神地域での厳しい競争に打ち勝ち優位性を確保していくことが重要となってくる。本会では一層の乳質向上を目指して平成9年度より乳質規格及びペナルティの額を改訂したが,体細胞数の30万以下の適合率が著しく低くこの改善が大きな課題となっている。特に最近の問題としては乳脂肪と無脂固形分の受給バランスの改善とおいしい牛乳の生産を目途とした乳成分取引の実施が急がれる。また分散している生乳検査所の統合にあわせて県内統一した乳質規格等を定め乳代精算方式を導入することが重要となっている。
*平成7〜9年度乳質検査成績
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細菌数 |
30万以下 |
98.5 |
98.3 |
98.6 |
体細胞数 |
30万以下 |
72.8 |
64.4 |
58.9 |
乳脂肪分率 |
3.6%以上 |
81.6 |
83.5 |
88.2 |
無脂固形分率 |
8.5%以上 |
82.1 |
81.8 |
79.1 |
*乳質規格及びペナルティーの額
1.乳質規格
区分 項目 |
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細菌数 |
0 |
30万以下 |
31〜100万 |
101万以上 |
体細胞数 |
20万以下 |
30万以下 |
30.1〜100万 |
100.1万以上 |
脂肪率 |
3.60%以上 |
3.50%以上 |
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無脂乳固形分率 |
8.50%以上 |
8.30%以上 |
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2.ペナルティーは,細菌数・体細胞数に適用する。
(1)規制乳1に対してはkg当たり10円
(2)規制乳2に対してはkg当たり50円
(3)ペナルティー対象乳は検出された日を含む月間平均の1日分の乳量とする。同一月に2回検出された場合は2日間とする。
(4)報告及び検査の無かったものは規制乳2とみなす。
6)酪農ヘルパー事業について
平成2年度より基金(3億円)を造成し,その運用等によって労働時間の短縮やゆとりある創出を目的として酪農ヘルパー事業を推進してきた。平成9年度で県内11組合が活動しており加入戸数は522戸(利用戸数465戸)1戸当たりの利用回数は年間平均13.96回となっており年々ヘルパー組合に対する酪農家の理解や信頼が深まってきている。今後は酪農家がゆとりある経営を目指すため積極的にヘルパー組合の運営に参加するとともに期待に応える優れたヘルパー要員の養成確保が必要となる。
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11組合 |
32人 |
39人 |
522戸 |
6,493回 |
13.96回 |
69.6% |
7)牛群検定事業について
牛群能力の向上や飼養管理方法の改善等生産性の高い経営を確立するには,牛群検定事業の参加が不可欠である。平成9年度の普及率は,検定農家で41.3%,検定牛で45.8%となっている。
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岡山県 |
347 |
41.3 |
10,542 |
45.8 |
8,750 |
6,032 |
北海道 |
6,134 |
60.1 |
318,703 |
65.0 |
8,517 |
6,233 |
府県 |
6,586 |
25.4 |
209,809 |
30.0 |
8,560 |
5,612 |
全国 |
12,720 |
35.2 |
528,512 |
44.4 |
8,534 |
5,659 |
8)担い手の育成確保
酪農戸数の減少や高齢化が進むなかで,本県酪農を支えるためには新規就農者酪農後継者の優れた担い手を育成確保することが重要な課題である。本県の場合幸いにして7中国四国酪農大学校があり卒業する学生が就農を希望すれば,新規就農資金等で調達支援できるよう受入体制を整備する必要がある。
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酪農農家(戸) |
9 |
66 |
234 |
175 |
208 |
38 |
45 |
775 |
割 合(%) |
1.2 |
8.5 |
30.2 |
22.6 |
26.8 |
4.9 |
5.8 |
100.0 |
9)第11回全日本ホルスタイン共進会岡山大会について
平成12年11月2日〜5日の間,おかやまファーマーズマーケット・サウスヴィレッジにおいて開催することが決定している。これを契機に乳用牛の資質が向上する等岡山の酪農が飛躍し活性化することを期待している。
3.おわりに
現在の本県の酪農戸数は860戸,飼養頭数は30,900頭と近年減少傾向にあり厳しさを増している。これに歯止めをかけ生乳生産を増産に向かわせることが大きな課題である。酪農が地域産業として生き残るためには集送乳施設の運営等などから一定の規模がないと存立しない。近い将来,酪農戸数600戸で生乳生産量を160,000トン維持しようとすれば1頭当たり年間生産量は8,000s,1戸当たり飼養経産牛頭数33.3の規模が必要となる。牛群1頭当たりの年間生産量の8,000sは今の飼養技術からすれば容易な数字でないかと思う。今後は酪農家並びに関係者が酪農組織の整備,担い手の確保対策,自給飼料の安定確保対策,優良牛の確保対策,畜産環境問題の解決等々多くの困難な課題を克服しておかやまの酪農が21世紀に向けて発展することを期待する。