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「牛群検定情報を活かして酪農を10倍楽しもう @」
“牛群検定に魅せられて”

(社)家畜改良事業団 家畜改良アドバイザー 永井 仁

 「お前,まだ牛群検定にしがみついているのか」と言われるだろうが,自分でもそう思いながら,性懲りもなくのめり込んでいる。

 −なにがそうさせたのか?−
 牛群検定が始まったのは昭和49年度事業で,具体的に動き出したのは昭和50年2月から。
 その時酪農大学校勤務中で「酪農大学校も参加しないか」と勧められたので,みんなと相談して参加した。
 参加はしたものの内心ではそんなに期待はしていなかった。
 というのはご存知の様に学校では朝晩乳量を計って,月末に集計していたので,毎月の総乳量と,個体毎の乳量は把握しているので,僅か月1回の検定ではこれより正確な情報は得られないだろうとの先入観と,かつて「経済検定事業」と言う補助事業があり,農家を指定して専任の指導員を雇って,今畜産会が行っておられる「酪農経営診断事業」よりもっと詳しく調査して,取りまとめるというものだったが,余りにも完璧を要求したので,3年くらいで止めてしまったこともあったからだった。
 当時は「検定記録票」が手書きで,それも野帳から転記されていたので,検定成績表が加工されて返ってくるのは,忘れたころの2カ月も経っていただろうか?
 だが返ってきた検定成績表を見て驚いた。
 先ず総乳量が,毎日計って集計したのとほとんど同じだったこと。
 次は個体の乳量は分かっていたが,乳成分が分からなければ本当の能力は掴めない。
 当時学校には設備がなかったので検査できなかった。検定も乳脂率だけだったが個体毎に知ることが出来随分参考になったこと。
 もう一点は分娩後,初めから検定した牛には91日(現在は45日)経過したら期待乳量が打ち出されることだった。
 僅か3つの情報だったが,牧場の皆さんがこれを使っていろいろアイデアを出して頑張ってくれたので,どんどん成果が上がっていき,いつのまにか検定に引き込まれていった。
 昭和53年定年を迎えると,6家畜改良事業団にお世話頂き,牛群検定の普及推進のお手伝いをすることになった。

 一時県の仕事に帰って,食肉センター設立を仰せつかったか,こちらは見事に落第,また牛群検定の仕事に舞い戻って,だんだん深みに入ってしました。

 −牛群検定情報は,酪農経営の宝の山−
 少し前までは,本屋さんに行くと,酪農特に高泌乳牛に関する書物を始め,酪農に関する情報は氾濫していると言っても良いくらい多かったが,最近は数誌の酪農雑誌を見かけるだけになった。
 だが情報に乏しく,指針が無くては安定した酪農経営も難しい。
 幸い検定酪農の皆さんには「牛群検定情報」と言う,強い味方がある。
 しかもその味方は,自分だけのもので,どんなに大きな書店に行っても,どんなに金を積んでも,絶対に買うことの出来ない大きな宝の本である。

 −何故牛群検定が必要か−
 わが国に飼われている乳牛は,平成10年2月1日現在で1,860,395頭飼育されていると公表されている。
 その内最も多いのがホルスタインで,1,851,000頭余飼われている。
 次がジャージーだが,その数はわずかに8,652頭(その内岡山県は2,337頭で最も多い)にすぎない。
 この最も多いホルスタインは困ったことに,個体の能力差が特に大きい牛であることだ。
 平成9年の305日,2回搾乳の立会検定の成績で乳量は全国平均で8,534sで8,534s(都府県は8,560s)まで伸びたが,検定牛で乳量の最も少ないものは2,064s,最も多い検定牛は22,459sで,20,000sもの大きな差がある。
 また乳成分のうち乳脂率だけ見ても,平均は3.83%だが,1.6%〜6.9%までの差がある。
 わが岡山県の平均乳量は8,750sで,全国平均を上回っているが,最少と最大の差は3,073s〜15,547sもある。乳脂率は平均は3.73%だが,1.6%〜6.2%も開きがある。
 こんなに差のあるものを,中身が分からずに飼っていると,儲けている牛か,反対に損をさせている牛とが分からない。
 人間様の世界では,厳しいリストラが行われているというご時勢,動物愛護も大事だが,損をかけている牛を,何時までも飼って居るほど,酪農に余裕は無いはずだ。
 しかも牛群検定を受けずに酪農をするなど,運転免許証無しで,公道を走っていると同じで,いつ検問にかかるかとびくびく運転している状態と変わらない。
 まだ検定を受けていない方は,是非検定に参加して情報を旨く使い分けて,科学的な酪農経営をしてしっかり儲けて欲しい。

 −岡山県の牛群検定の状態は−
 表,「検定農家数,検定牛頭数の対畜産統計比」は,平成9年度末の全国の実施状況。国は検定牛比率を60%以上を目標にして推進しているが,60%をクリアしているのは,北海道,宮崎,広島の3道県だけで,全国平均は44.4%,都府県の平均は30%,わが岡山県は,都府県の平均を上回って45.8%まで普及してきたが,国の平均の60%には普及したいもの。
 地域的な普及状態を見ると,九州地区が最も高く,中国四国地区がこれに続いている。
 関東,東北地区の県では,栃木と岩手が40%を超えて居るが,酪農県と言われる県が,意外に低いのが分かる。
 (資料は全てLIAJ発表のものを使用)

*検定農家数,検定牛頭数の対畜産統計比
都道府県
検定牛マスター(10.3.31)
検定農家比率(%) 検定牛比率(%)
検定組合 検定牛頭数 検定農家数 1戸当たり頭数 経産牛頭数 成畜戸数 1戸当たり頭数
北海道

142

318,703

6,134

52.0

490,300

10,200

48.1

60.1

65.0

東北 青森

3

2,033

60

33.9

13,700

470

29.1

12.8

14.8

岩手

21

17,348

618

28.1

42,400

2,300

18.4

26.9

40.9

宮城

3

2,533

105

24.1

26,300

1,290

20.4

8.1

9.6

秋田

1

1,452

56

25.9

6,200

270

23.0

20.7

23.4

山形

4

1,836

105

17.5

13,800

690

20.0

15.2

13.3

福島

6

4,525

199

22.7

20,000

980

20.4

20.3

22.6

小計

38

29,727

1,143

26.0

122,400

6,000

20.4

19.1

24.3

関東 茨城

6

6,960

193

36.1

28,600

950

30.1

20.3

24.3

栃木

10

20,246

502

40.3

45,200

1,390

32.5

36.1

44.8

群馬

11

14,618

371

39.4

41,700

1,330

31.4

27.9

35.1

埼玉

2

1,900

62

30.6

19,000

710

26.8

8.7

10.0

千葉

13

7,670

231

33.2

45,600

1,740

26.2

12.3

16.8

東京

1

964

34

28.4

3,120

140

22.3

24.3

30.9

神奈川

3

2,649

107

24.8

15,800

630

25.1

17.0

16.8

山梨

1

1,488

27

55.1

4,890

160

30.6

16.9

30.4

長野

7

4,568

169

27.0

23,700

1,030

23.0

16.4

19.3

静岡

5

4,626

138

33.5

17,300

580

29.8

23.8

26.7

小計

59

65,689

1,834

35.8

244,910

8,660

28.3

21.2

26.8

北陸 新潟

2

1,932

68

28.4

12,000

510

23.5

13.3

16.1

富山

1

807

26

31.0

3,480

110

31.6

23.6

23.2

石川

1

528

16

33.0

4,980

110

45.3

14.5

10.6

福井

1

896

28

32.0

1,980

70

28.3

40.0

45.3

小計

5

4,163

138

30.2

22,400

800

28.1

17.3

18.6

東海 岐阜

4

3,392

104

32.6

11,300

360

31.4

28.9

30.0

愛知

4

7,281

144

50.6

35,900

760

47.2

18.9

20.3

三重

1

1,289

34

37.9

9,350

220

42.5

15.5

13.8

小計

9

11,962

282

42.4

56,550

1,340

42.2

21.0

21.2

近畿 滋賀
京都
大阪
兵庫
奈良
小計
中国・四国 鳥取
島根
岡山
広島
山口
徳島
香川
愛媛
高知
小計
九州 福岡
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宮城
鹿児島
小計
沖縄
都府県
全国