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「岡山県における酪農経営の将来展望」 

  牛乳は,あらゆる栄養素をバランスよく含んだ完全食品として,人間社会に紛れもなく大きく貢献していることは,今日においても揺るぎない事実であります。江戸時代には病人の体力向上に薬として,戦後の食料不足の時には,体力向上,栄養補給として高度経済成長期では,畜産も華やかな時代で,産めよ増やせよと大変活気のある時代でした。
 現在の生乳生産は,生産調整下ではありますが,牛乳の消費動向を見れば,確かに飲用牛乳は勿論のこと,乳製品のヨーグルト,アイスクリーム等の生活食品の発達は目覚ましいものがあります。
 一方,酪農家においても,農耕用の和牛飼育から新たに乳牛を仮牛舎に入れて,手搾りを楽しんでいた当時から,搾乳もミルカーからパーラー方式に,飼養形態も,まや飼いから繋ぎ,連続スタンチョン,フリーストール方式に,草刈りも手刈りから,トラクターによるモアー方式に,飼料の貯蔵も小型サイロからタワーサイロ,バンカーサイロ,ロール方式にと様々に変化し,経済成長の流れとともに短い期間に作業形態も大きく変化してきています。しかも,世相の変化により,世界的な広域交通網や貯蔵技術の発達により,全ての生産物において,世界的な価格形成が要求されています。
 特に,平成13年のWTOの見直しが実施されますと,生産物が輸入しやすくなる状態下にあります。
 さらには,アジアを中心とした発展途上国が徐々に力を付けてきています。発展途上国の食生活が向上するにつれて,より一層世界価格化が進むことが予想されます。
 現状では,物が不足しているから輸入すると言うことだけではなくて,食べ残しを残飯として捨てながら,なお輸入すると言った不自然な社会情勢が一層進んでくると思います。
 戦後,かつて食糧不足の時,茶碗の縁をなめ回して生活をしていた貧しかった時代に成長してきた50才代以上の人なら節約,倹約,始末と言った言葉も通用するかもしれませんが,物余り現象で贅沢三昧の消費優先型の時代に成長してきた人たちにとっては,これから先,どうやって自分自身をコントロールされるのか想像もつきません。国内では,証券,銀行を始め,相次ぐ倒産,不祥事,不景気に伴う消費の落ち込み等,酪農関係以外のあらゆる要因に巻き込まれ,酪農経営に悩んでいるのが実態なのです。こうした現状を踏まえながら,新しい酪農経営のあり方を考えなければなりません。
 将来の酪農経営を考える時,現在までの酪農形態の反省を含め,酪農作業工程の合理化,機械化に取り組むと同時に,後継者の意見を充分考慮し,夢の持てる経営形態に努力しなければなりません。経営者は最小の投資で最大の利益を追求しなければなりません。そのためには,能力の高い牛群を揃えると同時に,機械器具の過剰投資は避けなければなりません。収入に見合った資金の使い方は勿論のこと,牛舎の周りを含め機械,車の台数が多すぎるのは,酪農経営にとって反省する材料となるでしょう。
 近い将来,岡山県下の乳牛の飼養戸数が550〜600戸の範囲に減少することが年齢構成の調査から予想されます。したがって,飼養頭数,乳量の減少から組合組織の再編成を視野に入れながら乳価交渉のやり方を再検討する必要があると思います。乳価交渉の現実を見ますと,3月には全国の農協等が組織を上げて乳価闘争をしている様に見えますが,交渉終局の現実は,農林水産省の官房審議官が大蔵省に行って予算折衝の形態で乳価交渉が決着しています。政府の保証価格が決定すれば,加工原料乳取引を実施している北海道,東北地域は,その年の乳価交渉は終わっていて,後は人ごとなのです。
 ところが飲用牛乳の乳価交渉をしている西側の地域では,各県単位の組合が全国区の大手メーカーを相手に精力的に何ケ月もかけて交渉しています。また,同じメーカーの取引きでありながら隣県の乳価は知らないし,県によって乳価が大きく違うのは,いかに競争原理とは言え,生産者の気持ちは納まらない。同じメーカーでありながら県境を境にして,s当たり何円も違うのは不自然です。2県以上にまたがる乳価交渉は,中央団体が一律に行うべきではないだろうか。このことからして,今後は,各県の生産者団体がお互いの手の内を公開して一致団結し,乳価交渉を中央団体の仲介の元に行い,酪農家も納得のうえ,早期に解決する方策を見つけなければ,将来の酪農振興はあり得ない。酪農家自身,自給飼料の増産,避けては通れない家畜ふん尿問題を正面から積極的に取り組み,酪農経営を安定させることが最大の課題です。
 平成12年11月に開催される全国ホルスタイン共進会は,是非,成功させなければなりませんが,乳牛の改良を目的とした共進会は,現在1頭当たり7,200sの乳量を平均10,000sの牛群に改良が促進され酪農経営の安定が図られなければ,共進会の意味がありません。
 何事においても一喜一憂するのではなく,長期展望に立脚した酪農経営を目指したいものです。