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〔共済連便り〕

「家畜診療日誌」

農業共済連 岡山西部家畜診療所 城 本 純 一

 喉元過ぎれば熱さを忘れる。の諺があるが,牛,特に乳牛にとっていまだに忘れられないのが,今年の夏の異常気候である。今年の夏は主に二つの特徴を持っていたと思う。@暑さは例年並かやや低めであったが湿度が高かった。A盆を過ぎてから本格的な夏の様相を呈し,且つ,その暑さが10月迄続いてとにかく長い夏であった。このような夏の年はその影響が暑い盛りの7月,8月は勿論であるが,秋になっても尾をひいて出るものである。
当岡山西部家畜診療所を例にとると,7月,8月の暑さが影響したと思われる死廃事故はそれぞれ28頭,33頭であったが,9月,10月のそれは35頭,28頭であった。ここで注目すべきなのは10月の28頭である。毎年,9月迄,夏の暑さの影響が残って死廃頭数が減らないのは普通であるが,10月の28頭は多すぎる。例年なら一段落する月である。そのほかに,死傷事故での繁殖障害,産前産後の疾病,関節炎,乳房炎の増加がある。これらの病気は普段でも多いのだが,例年に比べて特に今年の秋に多く,又治るのに時間がかかったり,遂には屠場へ行くことになるケースも増加しているように思われる。とかく,夏の暑い盛りだけに暑さ対策に関心が寄せられ,秋になり涼しい風が吹き始めると,さあ仕事をしてもらおう。と牛に無理をさせがちであるが,蒸し暑かった間中ストレスがかかっていた牛にとっては,酷なことではないだろうか。ストレスがかかり続けると,それを和らげるために副賢皮膚ホルモンが放出される。副賢皮質ホルモンは抗妊娠因子であるから,これが放出されている間は妊娠しにくい。繁殖障害が生じるのは当然である。又,副賢皮質ホルモンの抗炎症作用は細菌に対する抵抗力を低下させる。この結果,乳房炎,産褥熱等の感染症を発病しやすくなる。そして副賢皮質ホルモンの糖質コルチコイドの働きによって防がれるはずのケトーシスも,ストレスのかかっていた間中放出され続けたことによって,いざ必要という時になくなったり,受容レセプターが鈍化してしまうのである。鉱質コルチコイドの働きによって防がれる低カルシウム血症も同様の原因で起きるため,産後起立不能症が発生する率も上がることになる。やっとの思いで夏を乗り切った牛である。涼しくなったからといってすぐに今年の異常な夏を忘れず,牛を思いやる飼養管理をして欲しいものである。