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「黒豚に思う」

日笠農産株式会社 社長 日笠 瑛十郎

 昭和60年,津山に黒豚を始めた。
 以来13年間,振り返ってみれば,いろいろな変遷をたどって,今,岡山黒豚があると思う。
 当初は,売れない,飼いにくい豚,いくらPRしてもメディアに取り上げられても消費量はガンとして動かない。生産原価は,今に比べれば格段に高くついていた。産子数5頭,育成率90%,飼料要求率は大型種に比し,70〜75%,どうにも合わない。
 先進地九州より導入しても産地が拒否,最初の年は,津山農業改良普及所,津山市農政課,津山市農協の指導員の方々と九州に視察したが,遠方より豚舎を見せてもらっただけ,導入につながらなかった。色々とあったが,今は大勢の方々の力で大変いい条件の中で黒豚を飼育させて頂いている。しかし,当初味わったあの美味しい肉から少しずつではあるが遠ざかっている様に思う。
 黒豚が美味しいのは,生育が悪くて,その上,厚脂であるのが必須条件と,私は思っているが,最近,肉質よりも経済面のみを重視しすぎてか飼料要求率の向上,上物率の向上,いわゆる生産原価を低くすることのみ重視し,なぜ,岡山の黒豚なのかを……と言うことを忘れて進んでいるように思う。
 今のような型ではダメになる。
 やりかたによっては,九州に勝つことが出来ると確信する。もう一度原点にもどって黒豚を考えるべきだと思う。
 私の店では,断然黒豚がうれている。特に,日曜,祝日には県南は勿論,鳥取県他,他県から小さな店にきて下さる。また,地元のホテル,レストランからスーパーマーケットまで,黒豚のガラ,脂まで引き合いの話がどんどん入ってくるが対応出来るのは一部だけで,それ以上の生産は出来ていない。いい物を作れば売れる。岡山は九州に負けない飼養基準を作るべきだと思う。(枝肉規格基準もあわせて)鹿児島に叱られるかもしれないが,当店では昨年末,鹿児島県よりカット肉を購入した。たしかに,美味しい黒豚であったが,私の小規模飼育の黒豚の方が美味しかったと私なりに自信を深めた。いずれにしても,歴史上二番目に美味しい岡山の黒豚となると思うが,まず,生産頭数を確保することが第一の課題と思う。大規模農家のみに託すことより,30年以前のような小規模な1〜2頭飼いの農家を増やすべきだと思う。なぜなら,1頭1頭に目を配れ,健康なストレスのたまらない肉豚作りが出来るからである。このような豚は,おのずから美味しい,飼うことから農家のライフスタイルまで半世紀逆戻りを考えるべきだと思う。私も歩んできた道だが、経済面だけを重要視し,命の糧を作ることを考えておかなくてはならない重要なものを忘れていたのではなかろうか。その点,九州鹿児島は,立派だと思う。これから我々の地域を含めて高齢化の時代に入ることになるが,無理のない範囲で老後の生き甲斐の一つとして,また,ペット替わりとして岡山の黒豚をそだてて頂いたらどうでしょうか。畜産公害で頭を悩ますこともなく,今は少なくなった家畜を通しての子供達の情操教育の場ともなる。このような型作りで農業を守っていく,そして,黒豚を岡山の黒豚として認めて頂けるよう,一部の者だけでなく,大勢の小さな力の寄り合いで活性化していく。この中には,おじいちゃんも,おばあちゃんも,若者も,大規模畜産農家も,肉屋さんも,レストランのシェフも消費者の皆さんも,それぞれの立場で協力しあい,大きな太い根っこの底力の強い黒豚作りをする。多くの人から美味しいと言われる黒豚はこのような基礎作りから始まるのではないかとつくづく思っている。