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〔広場〕

「畜産1年生が考える環境問題」

勝英地方振興局農林水産事業部畜産係

1.はじめに

 桜のつぼみがほころび始める頃,奈落の底でこの世の舞台を動かす巨獣が年に一度の身震いをする。昨年の春,この気まぐれな身震いは,事務職の私に畜産係の勤務を命じ,係を始め周囲の皆さんの暖かい支援をいただく中,早いもので一年が経過しようとしている。今回は,この前まで門外漢(単なる消費者)であった者の視点から感じたことを素直に御案内させていただければと考えた。

2.事業を実施して…

 管内では,昨年度から奈義町において農協自らがモデル経営体となり,町内農家への優良繁殖雌牛や肥育素牛の安定供給と農家との連携による地域内一貫生産体制の確立を図るべく,大規模肉用牛繁殖施設(500頭)を整備する事業に取り組んでいる。この事業を担当させていただいているわけだが,事業実施に当たっては,県下に例のない大規模な和牛繁殖施設ということもあり,行政区域をまたがる場合の関係調整の難しさや地域住民との意見交換,合意形成の大切さを新人として実感する結果となった。これらにおいては,いずれも周辺環境に対する配慮がその中心的事項であり,実施主体である農協,これに携わる行政関係者も,従来よりこの点に一番腐心し事業を推進してきたところであったため,その姿勢を理解していただけないことにもどかしさを感じるとともに,平素から地域住民の方に受け入れてもらえるだけの土壌づくり(人間関係も含めた畜産サイドからの働きかけ等)の必要性を痛感させられた。

3.解決の糸口

 後日,これらの思いを解決する糸口のひとつに,管内の牧場の前で出会うことができた。それは牧場の看板であり,小さな花の咲く花壇の中に立てられた,かわいい子牛のポンチ絵で彩られたものであった。花壇を含むこの看板は,ここが単に牧場であることを示すだけでなく,経営者が周辺の景観に配慮していることや熱意をもって仕事に取り組んでいることを十分に感じさせてくれるものであった。ほんとに身近な,簡単なことではあるが,周囲に対し十分に情報発信をしているように思われた。

4.小さなことから

 「よく知らない,判らない…。」ということが,不安感となり,ちょっとしたことでも誤解や争いにつながることは,歴史が証明してきたところである。常に牧場内を片づけ,畜舎の周囲や周辺に花木の植栽を施し,洒落た看板を掲げる。町村内のイベントなどがあれば,自家の乳製品などを提供し食してもらったり,子供会活動の一環として,近隣の子供達を牧場に招き,親子の牛の絵を書いてもらうなど,地域住民にアピールし,結び付きを強めながら,畜産経営者が何を考え,何に取り組んでいるかを知ってもらうことのできる方策はいくらでもあるように思われる。また,行政サイドからは,更に一歩踏み込み,管内畜産農家が連携した「花いっぱい運動」や「一斉クリーンアップ作戦」等を企画し,支援を行えば,畜産農家自体の意識改革と周辺住民との適切な関係維持に役立てるのではないだろうか。複雑な問題を解決するヒントは,意外に足下に転がっているかもしれない。