〔共済連便り〕

家畜診療日誌

 農業共済連 勝英家畜診療所 畦崎 正典

 現在,県内においては乳牛の多頭飼育農家が増加し,それに伴い繁殖管理の重要性が問題になっています。勝英家畜診療所管内においても,飼養頭数100頭以上のフリーストール・フリーバーン形態の酪農家が6戸あります。
 そのうち3戸からの強い要望により,平成8年度から繁殖検診に取り組んできました。
 現在,1回の繁殖検診に獣医師4人で対応しています。役割分担は2名が直腸検査,1人が処置,1人が記録を担当し,ほぼ1時間程度で検診が終了するようにしています。
 当初は2名で検診していましたが,3時間以上もかかり,乳牛へのストレスが大きいと思われるため,現在ではできるだけ多くの獣医師で実施し,短時間に終了するよう努めています。この場合の利点として,短時間で50〜60頭程度の検診が効率良く実施できることです。しかし,日常における診療業務等の多忙により1ヶ月に1回しか実施できない問題が残ります。
 また検診の内容ですが,まず検診農家の繁殖状況を個体管理台帳にまとめ,それをもとに検診台帳を作成し,検診時に直腸検査所見及び処置内容等を記録していきます。
 2名の獣医師が直腸検査をし,1名がその卵巣所見を記録すると,口頭でのやり取りとなるため記録の方法が問題となり,卵巣図略語表を用いて文字で記録しています。このような形式ですと細かな卵巣図の表現が難しく,従来のような同一獣医師による継続的な繁殖障害の治療が出来ないという課題があります。
 また妊娠鑑定にしても,技術に個人差があり,現在検診実施している酪農家は種雄牛を導入し自然交配を実施しているため,いつ種付けをしたか不明なため妊娠鑑定技術が重要となります。
 また妊娠(+)と判断しても正確な胎齢を推測するのは困難で,予測した胎齢を基準にして分娩予定月日及び乾乳月日を決めるため,より正確な判断が重要であり,このため他の獣医師と胎齢判断の統一化が必要です。
 また,交配後妊娠日齢が短い場合は妊娠鑑定が困難なこともあり,ホルモン注射もしくは子宮内薬剤注入といった治療を行う場合には細心の注意が大切です。
 これらは検診を実施する獣医師にとってかなりのプレッシャーとなるのですが,直腸検査技術の向上にとってはメリットとも言えるかもしれません。
 現在,他の家畜診療所においても繁殖検診の重要性は見直されてきていて,1名で繁殖検診を実施している獣医師も多数いますが,現在の診療体制では検診の充実にも限界があると思われます。
 今後の課題としては,もう一歩踏み込んだ繁殖検診(例えば飼料計算等を含んだもの)を実施するためには臨床研修所と連携を取り繁殖検診チームによる検診体制を充実し,取り組む事が必要であると考えています。そのことが獣医師の技術向上につながるとともに,酪農家の経営安定のための重要な手段であると思っています。