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〔畜産会情報〕

畜産経営に対する支援組織のあり方
− ドイツで感じたこと −

社団法人 岡山県畜産会 本松 秀敏 

 今年の春早く,畜産に関する情報提供・利用の実態を調査するため,ドイツを訪問した。その調査内容の詳細については,報告書等で紹介したいが,ここではドイツ訪問中に考えさせられた,畜産経営に対する支援組織のあり方について,整理してみたい。

1.畜産経営に対する支援業務
  これからの畜産経営の主流は,大型化専業化の方向に進むことはまず間違いない。したがって,このような経営に対する支援業務に求められることは,@規模拡大し,ともすれば不足しがちな,経営者の日常的・非日常的作業の代行的支援と,A経営の戦略・戦術の選択に際する経営者の意志決定に対する支援にあるのではないだろうか。
  ここではとりあえず,経営内部データ活用という支援に限定して考えを進めてみたい。そうすると,@については,家畜飼養上発生する様々なイベント情報の収集業務支援,また,家畜飼養上発生する経理情報の収集業務支援,収集した情報を利用可能な形で保管するデータ蓄積支援,それらを必要に応じて取り出し,利用しやすい形に変える,処理・加工支援が必要な支援業務ということになる。Aについては,@の支援業務で収集・処理・加工したものを材料にシミュレーションを実行し,戦略・戦術の選択の適否を判断するといった支援業務ということになる。
  また,@についていえば経営者自らが処理・加工を省力的に行い,意志決定を行う際の処理システムの開発支援も必要となる。さらに別の視点から見ると,蓄積されたデータを支援組織そのものが活用して,畜産経営の基盤を向上させるような支援(例えば乳牛改良)も行われなければならない。

2.コンピューターセンターを核としたデータの共有
  ただ,現実にはこれらの支援業務のひとつひとつをとって見れば,わが国でもすでに行われているものばかりである。
  ポイントは,データの共有によるより幅の広い支援活動が行えるか否か,また,そのデータ活用のフォローアップ体制が,組織を越えて構築できるかどうかという点であろう。
  今回,ニーダーザクセン州内の,生乳検査機関,人工授精センター,畜産農家組合,コンピューターセンターという4つの支援組織を訪問したが,最も特徴的なことは,コンピューターセンターという共通の電算センターを持っていることである。これらの組織はコンピューターセンターを核とすることにより,データバンクを構築し,各支援組織のデータをデータバンクに入力し,そのデータを利用して,各支援組織が利用しやすいようにコンピューターセンターが処理し,提供するシステムが構築されている。
  もちろんこれらのシステムは徐々に成長したもので,コンピューターセンターは,まず牛群検定データの処理を始め,次に人工授精のデータ処理に取り組み,種雄牛評価システムに取り組んでいる。それまで,個々の組織で管理を行っていたデータが,電算センターに集積されることにより,他団体が保有している,畜産経営や家畜に由来するデータを,相互に活用することが可能となり,より効率的に,より各組織の目的にかなったデータの加工・処理をすることができている。個々の組織で電算処理組織をもち,データベースを保有しているわが国の団体を考えると,はるかに効率的なシステムであるといえる。もちろんこのシステムの構築を構想できた要因は,各家畜が共通の識別番号を保有(個体識別に関しては紙面の都合で今回は詳述は避ける。)していることにほかならない。

3.支援組織の財政的自立
  さて,支援組織の課題の一つは組織の財政的な自立にある。各組織は,当然会費収入があるが,加えてドイツにおいては,支援に対する対価の支払いは当然という認識があり,すべての支援業務から支援手数料収入が発生している。また,それとは別に,例えば畜産農家組合などは,牛の販売業務,それも主として東欧圏を対象とした輸出により,相当の収入を得ているものと思われる。地理的要因はさておくとしても,非営利団体が,マーケットをインターナショナルにとらえ,マーケッティング担当セクションをおいて,積極的に自国の畜産物(家畜・精液)を販売しようとする姿勢は,見習うべきものがある。
  但し,その背景には,組織間のきわめて熾烈な競争原理が働いていることも確かである。業務内容が異なる組織間では協調がみられるが,特に畜産農家組合間では,各組合に属する畜産農家戸数が減少してきていることから,個体販売や精液販売の面で,顧客(畜産農家)の奪い合いが起こりつつある。訪問した畜産農家組合のマーケッティング担当者が「敵対的組合」という表現を使ったことが忘れられない。マーケッティングを重視している理由もここにあると考えられる。
  このようにドイツの場合,州単位に複数の同種の組織があり,組織再編の真っ只中にあると思われる。そのプロセスで競争原理が働き,組織は生き残りをかけて,より高い家畜市場価格の維持,精液の販売市場でより優位に立てる,能力の高い種雄牛の作出,より広範な販売先の確保に努めている。

4.支援組織の今後のあり方
  ドイツとわが国は支援組織がおかれている状況は異なるが,以上を踏まえて支援組織のあり方を整理すると,まず個体識別システムを構築したうえで,@共有の電算センターをもち,Aデータも共有する。そのうえでB経営者個人がデータベースのデータを活用できるシステムと,C経営者の意志決定を支援するデータ利用システム(例えばシミュレーションシステム)の構築,また,D組織を越えたフォローアップ体制を構築することが,わが国の支援組織に求められていることではないだろうか。そして,組織の独立性と経営基盤を強化するため,E支援は有料化し,Fマーケッティング部門をもって畜産農家の利益に結びつく業務に積極的に取り組む,ということも今後は必要な視点であろう。