〔共済連便り〕

家畜診療日誌

 岡山南部家畜診療所 小村 昭正 

 ここ数年,家畜伝染病が頻発していますが岡山南部家畜診療所管内でも,サルモネラ症,アカバネ病およびRS感染症の発症により,思いがけない労働を強いられました。そしてサルモネラ症では未だトンネルを抜けきれないでいますが,アカバネ病,RS感染症については季節的な発生であり,とりあえずの終息を見ました。
 アカバネ病による難産は,昨年秋より今年春頃まで見られましたが特に秋に多発し,初産,経産の見境なく,また昼夜関係なく発生しました。難産の往診依頼により手術助手の手配をし,切胎器具,開腹器具を携行し,覚悟を決めて往診に出発しました。我が診療所での帝王切開実施頭数は,年間平均5頭以内ですが今シーズンは1週間でこの頭数を越えました。この様な外科治療で白黒のつき易い病気,結果の出易い病気は我々にとって,時には肉体的に辛い事もありますが,診断がはっきりしているため,ある意味では楽な診療になります。
 日数を掛けて蓄積された慢性病の完全治癒には,病に罹ってから現在までの数倍以上の日数が掛かるといわれています。
 足痛の多い農家,消化器病の多い農家,乳質の悪い農家,繁殖障害の多い農家,あるいはこれらの病気が合併している農家等,ここ数年間の傾向を見ていると,各農家で「何か感じられるもの」があるように思われます。現在の牛の寿命は,平均すると3産以内ではないかと思いますが,短い寿命の内にこういった慢性的な病に侵されてしまい,獣医師による薬剤の投与等で牛を騙しながら飼っているのが現状ではないでしょうか。
 家畜共済でいうと年毎に死亡廃用事故が増え,病傷事故が増大し,掛金率や初診料等,農家負担が増えているということからも充分推察されます。
 牛の系統,牛舎や周囲の環境等様々な要素が絡み,複雑な面もあると思いますが,牛の改良あるいは飼養管理技術が進み,単純な乳量だけを見ると向上著しい酪農の世界ですが,こういった治癒に長い日数を要する牛舎病とでも言える様な,複雑な病気が増えてきています。単純に白黒をつけ難いこれらの病は長い日数をかけて出来上がった我々獣医師泣かせの病であり,牛の抵抗力の無さを証明するものであります。それが関節炎であり,慢性乳房炎であり,繁殖障害等であろうと思います。これらをいかに減少させるかがこれからの課題であり,多頭化による群管理へと,成功に導く道しるべであると思います。
 乳代,肉代の減少,規模拡大による頭数および生産性の向上,人や牛に掛かる負担は大変大きなものになってのし掛かっており,それに伴う複雑な問題が蓄積され続けています。ある人は腰痛を持ち,ある人は膝痛,またある人は胃潰瘍があり,悪い箇所を悪いなりにいかに長持ちさせるか,我が身であれば騙しながら出来ることが牛に関しては,なかなか出来なくなって来ています。
 様々な分野での技術の進歩は著しく,先を見つめる事も大事でありますがこれらの病が非常に少なかった時代の個体管理技術も見合わせて考え直す必要があると思います。ある程度過去を振り返りながら少しずつ進歩をしつつ,人も牛も体を大切に!