〔随想〕

無胆嚢動物

 長 江 勘次郎(昭和32年ごろの「畜産便り」編集者)

 「岡山畜産便り」通巻500号,50年にわたり発刊,先づもって敬意を申し上げます。岡山の文化の高さを物語るものあります。
 無胆嚢動物,動物学にも書かれていない動物,ここでいうのは「生まれながらにして胆嚢のない動物」をいいます。人間に胆嚢のあることは承知しているので,胆嚢のない動物もいるのかといぶかしがるのも当然ですが,最も身近な動物の中では,例えば,馬,鹿にはありません。そんな馬鹿な話があるかと,本当にないのです。馬鹿とはこれが語源とか(トンチ教室の話?)
 若いころ,実験馬の病理解剖を何十頭となく経験し,胆嚢のない動物とは知っていましたが,鹿に胆嚢がないことは,いつごろか,後ほどに知りました。
 私が勤務していた鶏の研究所に,羽毛の真白い鳩が3羽病性鑑定のため持ち込まれました。当時は1日何羽もの病鶏を解剖していたので,お手のものとばかり鳩を解剖しました。驚いたことに胆嚢がありません。もしかして畸型かとも思い,残り2羽も解剖したがありません。おかしい,鶏にあって鳩にないなんて疑問を抱きながら,早速に家畜比較解剖学を繙いてみましたところ,脚注に小さい字で鳩,インコ類には胆嚢がないとありました。全く驚きました。天下の動物医として,内心忸怩たる思いがしたのでした。
 そのことから無胆嚢動物に興味を持ち,日ごろの好奇心も手伝って,機会ごとに調べることにしました。
◎哺乳類で胆嚢のない動物
  馬属の全部,シカ科のもの,ゾウ,ラクダ,,クジラの類,齧歯類のリス,ヤマアラシ,ネズミなど,他にもいると思いますが。
◎鳥類では,前出のハト,インコの類です。
 こんなにも多くの動物がいました。
 胆嚢のない馬では,胆汁は胆管を通って,十二指腸膨大部,ファーテル乳頭に膵管と共に開口し排出します。開口付近の粘膜は肥厚しているようです。胆嚢動物の胆汁は一旦胆嚢に溜まり排出します。ところが,胆嚢の有無に引き換え,脳に至っては,魚類,両生類,鳥類,哺乳類とどの種類を取っても,脳の前方から,終脳,間脳,中脳,小脳(後脳)と明らかに区別され,その後方に延髄が続き,付属物の松果体,脳下垂体も区別されており,基本的部分が全部共通に揃っているのです。人間の脳と同じ部品を持っているのです。(シーラカンスも同じ部品を持っているのだろう)
 哺乳類になると突然終脳の中の大脳皮質が大きくなり,「人間は脳を育てる動物」というだけあって,人類で大脳皮質が極致に達するという。
 動物は気の遠くなるほどの年月の間に,変化する環境に即応して進化を重ねて生き続けてきたのであろう。自然は偉大なものと同時に動物も偉大なものである。どのように生き続けてきたか,千差万別,知るよしもないが,ここでは不問,まさしく「造化の妙」,万事この言葉で一件落着といたします。