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肉用牛をとりまく環境は飼育者の高齢化及び収益性の低下等により飼育頭数が減少しており今後もこの傾向が強まると予想される。
しかし,牛肉の需要は今後も増加が予想されること及び中山間地の活性化の中核として期待されている土地利用型畜産としての肉用牛振興が必要である。
このためには従来のような価格上昇を期待した経営ではなく,今後はいかにして和牛飼育にかかる無駄を省き,生産費のコスト低減による経営の合理化を進めるとともに,規模拡大による所得向上を図ることが最も重要であると思われる。
1.和牛の飼育状況と牛肉需要の見通し
性別 |
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年度 |
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(千円) |
平成元年 |
2,530 |
3,179 |
5,708 |
434 |
477 |
458 |
3年 |
2,518 |
3,218 |
5,737 |
373 |
429 |
404 |
5年 |
2,268 |
2,754 |
5,022 |
235 |
299 |
270 |
7年 |
1,597 |
2,185 |
3,782 |
301 |
360 |
335 |
8年 |
1,511 |
1,889 |
3,400 |
319 |
377 |
351 |
9年 |
1,393 |
1,731 |
3,124 |
308 |
380 |
348 |
10年 |
1,304 |
1,771 |
3,075 |
298 |
376 |
343 |
県内和牛繁殖牛の飼育状況を表1の子牛市場入場頭数で見ると,平成元年度の入場頭数が5,708頭であったものが平成10年度は3,075頭に減少しており,年間200〜300頭の減少になっている。
しかしながら,平成9年度から10年度の減少は40頭程度となっており,下げ止まりの傾向が見られる。また,平成11年度は後半から大型繁殖センターからの出荷及び受精卵移植による乳牛からの生産が期待されることから,横バイないし微増するものと予想される。また,価格についてはここ数年間は33万円〜35万円で推移している。
次に,畜産物需要長期見通し(農政審議会)によると,牛肉の需要量は昭和50年が42万トン,平成8年度が142万トン,平成17年見通しが198万トンと順調な伸びを示し,平成17年までは年率5.6%の増加が見込まれている。
豚肉の需要量は昭和50年が119万トン,平成8年が213万トンに増加しているが,平成17年の見通しでは218万トンの増加に止まっている。
鶏肉の需要量は昭和50年が79万トン,平成8年が184万トンに増加し,平成17年の見通しでは197万トンが予想されている。牛肉の需要量は昭和50年が616万トン,平成8年度が1207万トンで,平成17年の見通しでは1311万トンが見込まれ年1.0%の増加率となる。このように依然根強い牛肉の需要が伺える。
2.低コスト生産に向けて
1)超早期離乳技術
繁殖成績は農家にとって経営を左右する重要な条件となる。繁殖成績が悪ければ子牛の生産コストも高くなり,繁殖経営の最大の問題点といえる。
また,子牛下痢症等による事故が出荷頭数の減少となり,経営を圧迫する要因となっている。
この対策として,超早期離乳技術が県内でも試行されている。
従来和牛繁殖農家では親子を一緒に飼養し,子牛の哺育育成は親牛に任せられているのが通常である。そのため規模の拡大に伴い子牛の個体管理が困難となり,下痢の発症や肺炎の発症,それに伴う発育の遅れや事故率の増加が問題となる。この技術は子牛を生後3〜7日で親子を分離し子牛は人工哺育を行う飼育法である。子牛の飼育法は受精卵移植によって乳牛から生産された子牛と同じ飼育法である。
表2は富山県の吉川農場(繁殖雌牛25頭飼育)での疾病発生状況を示したもので,この牧場では平成4年2月からこの技術を導入し,以降下痢の発生が減少したことが伺える。
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子牛育成牛死亡頭数 | |
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23 |
23 |
11 |
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18 |
15 |
1 |
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22 |
0 |
0 |
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28 |
0 |
0 |
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19 |
0 |
0 |
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22 |
0 |
0 |
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16 |
0 |
0 |
その飼育法の利点としては子牛の個体管理が容易なことから下痢などの疾病発生が減少すること,離乳することにより母牛が泌乳することがないため『増し飼い』が不要となり,繁殖牛群の管理が容易になることや,母牛の繁殖成績が向上することである。したがって,この飼育法はある程度(繁殖牛20〜30頭)以上の規模の繁殖または一貫経営農家にとって導入効果が最も大きくなるものと思われる。
2)受精卵移植技術の応用
牛の受精卵移植技術は高能力の雌牛から一度に多数の受精卵を回収し,他の雌牛(借腹牛)に移植することにより,1頭の雌牛の生涯産子数を飛躍的に増加させ改良のスピードアップや増産を図る技術である。
近年,受精卵移植を中心とした畜産新技術の進歩は著しいものがあり,県内では地域でのETセンターの設置,協議会及び研究会の設置などによってフィールドへの技術浸透が図られている。さいわい本県は乳牛の飼育頭数が多いことから酪農家との連携を密にしながら,黒毛和牛優良牛の生産に取り組める条件にある。
性別 |
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区分 |
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受精卵子牛 |
14 |
245 |
268 |
12 |
272 |
385 |
一般子牛 |
420 |
255 |
272 |
487 |
271 |
367 |
表3は平成11年4月から7月子牛市場に出荷されて受精卵子牛と一般子牛を比較したもので,めす子牛はやや一般子牛を下回るが,去勢子牛は体重及び価格とも,一般子牛を上回る評価を受けている。
3)放牧飼育の見直し
肉用牛生産のコスト低減と規模拡大を図るには,林地,野草地,牧草地を組み合わせた放牧飼育が最も効率の良い飼育形態として見直されている。現在の和牛繁殖経営の収益性は以前に比べて低下している。子牛価格が高ければ存続できるが,価格の低迷する今日の収益水準では労働水準の低い高齢者でさえ,飼育を中止せざるをえない。
このためにも放牧飼育を経営ないし地域畜産の中に大きく位置づけ,生産費の大幅な低減が必要である。
岡山県の和牛放牧の状況を見ると,現在利用されている放牧場は約30牧場で,600〜700ゥが利用され,500〜550頭が放牧されている。しかし650〜750ゥの放牧地が利用されておらず,放置された放牧地となっている。
従来の放牧飼育は子牛の発育の遅延や繁殖めす牛の繁殖率の低下,さらにはピロプラズマ病の発生など問題点が多く,これが親子放牧の普及を阻む最大の要因となっていた。
しかし,その後の放牧管理技術の進展があり,放牧飼育の方が優れる事例も多くなってきている。
すなわち,子牛の発育の遅延防止には,前述の超早期離乳技術により生後1週間程度で母子を分離し,母牛は放牧し子牛は離乳して舎内で飼育するため,運動量を制限することにより,発育が遅れることなく順調に育つとともに,母牛は子牛を離乳することで繁殖成績が向上することとなる。
ピロプラズマ病の予防にはダニの忌避剤が開発され,1週間〜2週間に1回牛体に塗布することによりほぼ完全に防除が可能となった。
また,草地のシバの導入が近年注目をあつめている。草地として造成されれば,掃除刈りが必要でなく,管理がきわめて省力的なこと,牛が採食することで自然に種がフンの中に排出されるため草地が広がっていくこと,また,夏に強く草の量が年間平衡生産が可能なことなどの利点がある。
放牧地にシバを取り入れることにより,農林地の保全的役割を果たすメリットもある。
4)自給飼料の生産の拡大
飼育規模の拡大に対して飼料生産規模の拡大・整備が追いつかず,飼料自給率の低下に伴う多くの問題が生じている。さらに環境保全の面からも濃厚飼料に過度に依存した畜産経営は反省が迫られている。
また,米の生産調整による転作田を自給飼料生産の場として,さらに有効に活用することが望まれる。しかし,現実には飼料作物の収量が期待したほど高くなかったり作業機械が過剰投資であったりして,飼料作物がそれほど安価に生産されているとはかぎらないケースがある。
このため,飼料作物の低コスト化を図るには@適草種・品種を選定すること。A安定収量を確保すること。B飼料畑の集団化・共同作業化の推進。C機械類の共同利用・共同作業の推進。D収穫・貯蔵ロスの防止。Eサイレージ利用の推進等が考えられる。
各種飼料作物の栽培法については『畜産だより』99年3月号を参照のこと。
繁殖経営においては,子牛生産をふやし,収益をあげ,所得を高めると同時に,子牛の生産に要した費用を,できるだけ低くおさえることが経営管理の一大条件である。
最終目標は,いかに生産コストの低減を図り,生産性を向上させるかである。