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凍結初乳による和牛子牛の下痢対策

高梁家畜保健衛生所

 和牛子牛の下痢対策として乳用牛の初乳を利用した「初乳バンク」を設立し,分娩直後の子牛に給与することにより下痢発生が減少したのでその概要をお知らせします。

1.凍結初乳の作成

  初乳採取牛には健康な乳用経産牛を選び,分娩前に牛用大腸菌ワクチンの予防注射を接種した。分娩後24時間以内に搾乳した初乳を0.5リットルに小分けして凍結保存した。

2.給与量の検討

  繁殖和牛において初乳の人工給与は,経験も少なく,乳用子牛で給与している2リットルは難しいと思われることから,給与量を無給与・0.5リットル・1リットルの3区を設定し,少量給与量での効果を検討した。
 1)病原性大腸菌K99の抗体価(図1)
   白痢の主な原因菌といわれているK99に対する抗体は,凍結初乳無給与区(自然哺乳区)では当然抗体が認められなかった。0.5リットル給与区では抗体価にばらつきが認められている。1リットル給与区では全頭に2倍以上の抗体価が認められた。

 2)血清中γグロブリン量(図2)
   免疫量のバロメーターと云われているγグロブリン量をみると,凍結初乳無給与区(自然哺乳区)では0.9r/qであり有効量といわれている1r/qを僅かに下回っている。0.5リットル給与区は1.38r/q,1リットル給与区は1.56r/qとともに高い数値を示している。
   これらのことから和牛子牛の凍結初乳給与は最低でも0.5リットルで,1リットル給与する方が望ましいことがわかった。

3.凍結初乳の利用方法

 1)母牛の陣痛が始まると,凍結初乳の入ったフリーザーバッグを流水または50℃以下のぬるま湯で解凍する。
 2)分娩後30分以内に40℃に暖めた初乳を0.5〜1リットル給与する。
 3)哺乳瓶(写真1)は500pの洗浄瓶に耐圧ホースで乳首を作り使用している。この哺乳瓶は,分解が容易で,洗いやすく衛生的である。また,子牛の投薬器としても利用され,安価でできる(500円程度)ことから農家から喜ばれている。

4.効   果

  給与後の下痢発生状況は,凍結初乳給与群では48頭中21頭(44%),無給与群では35頭中19頭(54%)に下痢が認められており,給与群においてやや改善が認められている。さらに給与群において下痢の発生事例を精査したところ,給与方法に不備(高温解凍による免疫効果の低下等)な事例が認められた。このことから適切な使用が行われれば更に効果が期待される。
  さらに付加効果として,早期に人工哺乳を行うことにより子牛が人に慣れやすく,おとなしくなるなど飼育管理が易しくなっている。

5.初乳バンクの運営

  初乳バンクは地域の和牛改良組合が中心となり,町内酪農家や関係機関の協力により運営されており,凍結初乳の管理は,JAびほく平川支店で行われている。組合員は分娩前に必要量の凍結初乳を自宅に持ち帰り分娩に備えている。なお,供給量に余裕のある場合には,組合員以外でも利用することができる。利用料金は組合員は1パック(500p)200円,組合員以外は250円となっている。

6.ま と め

  和牛子牛は,自然哺乳が主体で飼育されており,初乳を飲み始める時期が不定でばらつきが大きかった。地域内の酪農家の協力により,細菌性下痢に対する免疫賦与を与えた「凍結初乳」を作成し,分娩直後に人工哺乳を行った結果,下痢の減少がみられた。今後「除角」を行うなど,分娩直後の安全な飼養管理を浸透させ,多量給与を行うことができると更に効果が期待される。

「凍結初乳」利用問い合わせは,JAびほく平川支店(TEL 0866-45-2225)まで