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「共進会出品牛の華麗な演技」

高梁地方振興局畜産係

 会場が一瞬静まった。名匠の手綱が引かれると500キロの牛は,いとも簡単に基盤に乗った。
 8月27日に開催された第26回成羽町畜産共進会での一幕だ。名匠の名は沖嶋浩三さん(76歳)。和牛を飼育して半世紀を超える大ベテランだ。
 演技を披露したのは,「なりちかた3号」平成9年11月20日生まれのうら若き雌牛。「基盤乗り」は,和牛がまだ役牛として活躍していた頃の調教技術のひとつ。今では,全国的にもこの技を駆使できる人はほとんどいない。また,特筆すべきは,この牛が共進会出品の雌牛ということだ。
 「前進」「後進」「横足」「右回転」「左回転」,技は次々と繰り広げられる。圧巻は二つの基盤の上に架けられた幅30p,長さ3mほどの板の上を歩く「橋渡し」だ。名匠は,牛に触れることなく手綱一本で操る。
 「調教は日々の積み重ねが大事。毎日辛抱強く調教してやると,牛は人の気持ちを理解し,思い通りに動いてくれる。また,調教により人に慣れおとなしい牛になる。」と沖嶋さん。事実この牛は,大観衆の歓声にも臆することなく淡々と“技”を披露していく。最後は,両肘を地面につけた丁寧な「お辞儀」で締めくくり,固唾を飲んで見守っていた観覧者の拍手喝采を受けた。

 「主人は,とにかく牛に夢中。いい牛をつくろうと粗飼料は全量自給で,今も年2回のトウモロコシのサイロ詰めは欠かさない。」と幸恵夫人は微笑むが,内助の功も見逃せない。
 まさに,名匠夫婦に育てられた名牛は,この日,町代表として威風堂々メダルを装着した。
 県中西部に位置する成羽町は,山間の急峻な地形で古くから県下有数の和牛の生産地であったが,近年,高齢化と担い手の不足から戸数,頭数とも減少の途をたどっている。
 こうした中で,平成11年度の成羽町畜産共進会は,町当局を始め,農協及び和牛飼育者等関係者の強い熱意により開催されたものである。
 ちなみに平成10年度は,諸般の事情により開催されなかっただけに,今年度の開催に向けた沖島さんら和牛農家の思いも格別のものがあったと言え,成羽町畜産の活性化に向けた力強い動きの一つでもある。
 続いて,平成11年9月16日に久世家畜市場で開催された「第47回高梁地区和牛共進会」では,若雌2区優等賞に堂々5席入賞した。
 今日も,成羽町の沖島さんの畜舎前では,平成11年10月16日,17日の県畜産共進会への出品と基盤乗りの披露を目指して,練習に励んでいる「なりちかた3号」の姿が見られる。