ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和24年11月

畜産便りの創刊に当って

岡山県副知事 佐藤勝也

 冒頭より些かびろうな言葉を使うようであるが,都々逸の文句に「公侯伯子男爵よりも国を富ますは肥びしゃく」と言うのがある。之は消費特権階級に対するやゆと農民の有難さをこすいしたものと解する。
 戦後の現在は貴族階級もなくなり,特権階級もない。従って国民は等しく夫々の職域にあって国の復興に精一杯の働きをしている。とりわけ日本の農民諸君は,その数においても産業上の立場でも,最も基本的な地位にあって日本再興の原動力となっていると言えよう。何時の世にあっても何処の国に於ても農民が繁栄している場合は,即ち国が平和であり裕福であることを意味する。ではこの農民の繁栄はどうして作るかと言うことになるが,これは農民自体の自覚と工夫がなくてはならない。近頃文化なる言葉がやたらに用いられているが,その実農民文化と言えば一時は青年子女の軽薄な娯楽と享楽の流行となって現われた事であるかの感を受けたものである。元来文化とは英語の「カルチュア」と言う字を用いられその語源は「耕作する」と言う意味から生れている。言葉を換えて言えばより良いものを作り出してゆくと言う意味にとれる。そこで農民文化の向上と言えば前述したように,自覚と工夫によって生れてくることとなる。更に之を具体的に言えば農村に科学的な知識と技術の向上とが問題となる。つまり今後一層多角的,集約的となり高度の農業生産をとってゆかねばならない。この目的達成の一手段として畜産を織り込んだ農業,所謂有畜農業は誰しも疑いを挿まぬ一般的な農業経営の行き方である。土地柄とか経営に応じた家畜をとり入れてその生産物を或いは畜力,或いは肥料源として利用される面はけだし私の想像する以上のものがあることを直接体験されていることだろう。県は農家の皆さんと一体となって,この目的をより良くより着実に進めて行く為に,この度本誌が企画されたのである。願わくば農家の方々の一人でも多く,この本誌の目的を理解され真に有効のものとされる様期待して止まない。