ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和24年11月

牛の蕃殖障害をなくして生産率を昂めましょう

守屋 進

 人の世は産児制限の声高く,鼠のように増える人の子の整理に懸命であるが,畜牛の世界は飽くまでも,「産めよ,増やせよ,なるべく多く。」をモットーにしているが,この生産に対して最も大きな障碍となっているのは,何んと言っても蕃殖障害である。
 では蕃殖障害と俗に言う厄介者とはどんなものであろうか。
 先ず蕃殖年令が来ても発情しないもの(未発情),分娩後の発情が3ヶ月経っても来ないもの(不発情),折角発情しても畜主が気が付かない弱いもの(鈍性発情),発情が順調に来て種付しても数回も中には10数回も種付して,1年殆んど種付に終始しなければならないもの(生殖器疾患),先天的奇型,牡の精虫止除症等が之に入り,これに加えて,法定家畜伝染病である牛の原生虫病(トリコモナス病)牛のブルセラ病等によって起る不受胎や流産等漸く受胎したものが途中で流れたりするようなものがこの厄介者の数が,県下の各郡に相当増えているようだ。それは我々が見聞する範囲からも,又時々の検診によっても肯定できる事実である。
 今試みに昭和23年の4月及び7月に於ける,県下各人工授精所で診断し治療した頭数を一覧表にして見ると次の通りである。

人工授精所名 昭 和 23 年 4 月 昭 和 23 年 7 月
頸管 子宮 卵管 卵巣 頸管 子宮 卵管 卵巣
山口乳牛人工授精所 2 17 11 1 7 15
鴨方 〃   〃 1 5 4 2 5
鴨方和牛  〃 5 2 20 34
神立 〃   〃 4 19 22 3 8 14
新見 〃   〃 18 3 17 32 5 24
千屋 〃 〃 6 46 3 1 3 35 17
川上 〃 〃 5 30 2 6 21 23
楢原 〃 〃 42 137 9 9 65
24 64 291 83 7 21 59 13

 これら蕃殖障害は如何にしたらなくすることが出来るだろう。
 技術者が主体になることは勿論乍ら技術者だけに頼って事足れりと思っていては仲々少なくはならない,それよりも畜主の一人々々がこれに注意して早期発見に努力なくては駄目である。
 これを要するに次の様な場合は,成るべく早く獣医師の診断を受け,その原因を確め早く治療しましょう。

1.生後18ヶ月過ぎても発情のないもの。
2.分娩後3ヶ月を経ても次の発情のないもの。
3.発情周期の不安なもの。
4.何回種付しても受胎しないもの,3回以上は必ず診てもらいましょう。
5.種位後3−7日で陰部より膿を漏出するもの。
6.2−4ヶ月で流産するもの(トリコモナス病)7,8,9ヶ月で認めるべき原因がなくて流産するもの(牛のブルセラ病)
7.1種牡牛の勢力範囲で群に別段認められる原因がなくて,受胎率のとみに低下した場合。

 上の様な時は,ためらうことなく,速やかに獣医師に診せ,原因を追求しましょう。
 又種牡牛管理者は種牡牛の沸底し補充に多額の経費を要する折柄特に次の点に留意して,優秀な牡の維持に努めましょう。

1.発情粘液を手に取って見て少しでも膿の交ったものは殊に膿を漏出している仔牛には絶対に種付をしないで,透明な硝子様の粘液のものだけに実施しましょう。
2.種付後は1%微温湯クレザール,クゾホルム等の消毒薬で陰茎の洗浄を実施しましょう。
3.種付は発情中何時でも行うのではなく,牡牛の排卵と精虫の運動から考えて,その発情の終期に実施しましょう。
4.飼養管理に気を付け,牡の栄養維持と日々の手入と運動を充分にしましょう。
『リゾホルムに匹敵する“リゾホリン”500グラム280円が畜産課衛生係にありますから斡旋します。』