ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和24年12月

畜産の進路

岡山県経済部長 本城 寛

 日本畜産の発展過程には色々の難関があった。その要因の中でも先ず土地が狭く,人口密度が大きい事もその一つである。分り切った事ではあるが,畜産は土地利用による産業部門に屬する事にも常識的判断が求められる。
 又長い間農業経営形態が米麦偏重の耕種農業に導かれており,家畜との結びつきといった面は殆んど顧みられなかった事にもある。
 従って畜産の母体たる農業に於て飼料作物なり自給飼料なりの面は極めて関心が乏しく進歩がなかった。
 今一つは国民全体の衣食生活上の習慣があげられる。殊に食生活で畜産食品の用途が少なかった。迷信的観念や米と野菜に凝り固った嗜好性が,長い間畜産物にそっぽを向いていた。又一面大衆の経済的食生活からいって畜産物は他のものに比べて余り高価すぎて常食的には無理な点もあった。
 然し戦後の食料事情の体験から,一般の畜産物に対する渇望は相当認識を深め,同時に畜産を振興しようとする機運は一般消費者からも強く叫ばれてきた。そして最近急ピッチで伸びて行かんとしている。
 ところがここに問題がある事に注意しよう。需要と供給の点からいえば最近迄の状況では先ず生産者や中間販売業者に極めて有利だった。その故で馬車馬的な増産意欲をそそった嫌いもある。いいかえれば投機的な価格が増産に拍車をかけたともいえる。過去現在を振り返り将来への構想によく考えて行こう。
 無理な経営が永続性があるのか? 狭い土地からどうして飼料を求めてゆくのか? 農業経営の規模に又適応した家畜であるのか? この家畜の能力はこれでよいのか?…と…よく農業の中に畜産を織り込んで高度の利用を図り,養畜生産費は徹底的に安くあげることに工夫を求めたい。そして農業全体として採算のとれる畜産が出来た時初めて安価な畜産物となって,豊富に大衆の需要に応ずることが出来る。
 土地と大衆とに結びついた畜産が生まれて,初めて畜産の進歩の段階がある。それには又日本の農業が如何にうまく畜産をこなしてゆくかにかかっているのである。