ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和24年12月

全国畜産大会開催さる
11月7日 於 東京

大会の宣言

 日本経済の容相は今や急激なる変遷を見つつあるも,国家再建の基礎的前提条件たる原始産業,就中農業部門に於ては,未だこの事態に対応するだけの内容もなく,またその対策も加えられていない実状にある。
 終戦以来我々はこの農業部門の発達は,畜力及び廐肥の利用その他効率的なる有畜経営化の促進を必須条件とし,更に乳肉卵の供給による国民栄養の向上,衣料皮革資源の増加,輸送力の確保等に貢献せんとし,献身的努力を傾注し来ったのであるが,常にその前途に横たわりこれが進展を阻んで来た飼料問題,金融問題,課税問題等はいまに至るも聊かの解決を見ず,甚だしきはむしろ悪化の傾向をさえ見られ,畜産は正に危殆に瀕せんとしているのである。 
 世界を通ずる自由競争経済の真只中に放り出されんとしている日本農民が現在逢着している深刻なる恐慌過程を省みるとき,ここに新たに農業恐慌の防除策としての畜産は充分に再認識されなければならない。
 このときに当りわれら畜産関係者は確乎たる意思と鞏固なる団結とを以って万難を排し,新たなる光明を開拓し以って畜産の堅実なる発達を図り国家の再建に貢献せんことを期し,ここに新たなる決意を表明せんとするものである。
 右宣言する。
  昭和24年11月7日
   全国畜産大会

決議

日本の再建国民生活安定のためわれわれ畜産関係者はここに宣言の通りその決意を新たにするところであるが,政府は民意の在るところを洞察し特に第5国会が競馬収益の3分の1を畜産振興のため使用すべく法定した趣旨を尊重し更に強力なる施策を以て速に左の事項の実現を図られたい。

1.畜産課税に関する件

  畜産に関する課税はその課税方法の独断的にして不合理であること,家畜が課税客体として捕捉し易いこと,税務当局の畜産に対する認識不足等により,今や過重の限度を超えて不当課税の域に達し畜産の維持発達を危殆に瀕せしめているのである。仍て政府は速かに次の各項を実現すること。

 @ 所得税は現在その所得見積方法に何等根拠なく最も独断的であって実際所得の数倍を所得として更正決定課税されている状況である。仍って所得見積方法を合理化する為別冊「畜産に関する科学的所得計算要領」の趣旨に従って官民共に所得見積りを為すよう速に処置すること。
 A 畜産事業に従事する家族の勤労控除はシヤウプ勧告に於てもその合理性を認め昭和24年度第3・4半期はこれを控除するもそれ以外は控除せぬことになっておるが,勤労による所得たることに於ては給与所得者と同様であり,基礎控除,扶養控除も給与所得者と同様であって勤労控除は給与所得者のみとすることは課税不平等であるから畜産業についても勤労控除を認めること。
 B シヤウプ勧告案の所謂付加価値税は同勧告案通り畜産については全面的に免税の取扱をすること。
  若し何等かの条件を附するとしても,原始産業たる左の事業は必ず免税とすること。
  1.家畜生産
  2.家畜育成
  3.家畜肥育
  4.家畜種付
  5.酪農(農業協同組合及びその連合会の行う乳製品の製造事業を含む)
  6.採毛(羊毛,兎毛等)採皮(兎毛皮野生獣皮等)等の事業
  7.養鶏,養鶩,養蜂等の事業
 C 地方税法による法定税として畜産に関するものは極力整理するは勿論目下畜産関係者の最も苦痛とするものは,法定外独立税である。故に法定外独立税は畜産の如き主食に亜ぐ生産事業には課税せざること。
 D 飼料及び畜産物に対する取引高税を撤廃すること。
 E 畜産加工食品に対する物品税を撤廃すること。
 F 畜産所得は源品課税とし総合課税としないこと。

2.畜産金融に関する件

  畜産発達の為には,家畜購入資金,飼料購入資金,畜産施設資金,飼料生産貯蔵設備資金,畜産物加工施設資金その他種々の資金を要するに拘らず,政府は之等に対し何等の考慮も払わぬ状態である。故に政府は直ちに少なくとも次のことを実行すること。

 @ 対日援助見返り資金からの源資の供給を為すこと。
 A 預金部資金融資その他適当の方法により畜産源資の増加を図ること。
 B 畜産資金損失補償制度を設くること。
 C 農林中央金庫の常任理事中に畜産関係者を加えること。
 D 農林中央金庫の組織を民主的に改正し,その資金融通の簡易化を図ること。
 E 農業手形制度,畜産手形(漁業手形の如きもの)その他手形制度を拡大強化して,畜産資金の融通を容易確実ならしむること。
 F 開拓地に対する畜産特殊融資制度の継続,拡大強化を図ること。
 G 畜産資金貸出優先順位を引き上ぐること。
 H 日本銀行は畜産金融について市中銀行金融斡旋を積極的になすこと。
 I 国営競馬益金の一部を畜産金融源資の一部として利用出来る様措置すること。

3.飼料に関する件

  飼料の不足と配給の停頓は現在畜産振興阻害の根源を成しているのである。故に政府は飼料供給の増加,配給の円滑を期するため速に少なくとも次のことを実現すること。

 @ 客観状勢の推移により現行飼料統制方式は当然改めらるべきも,いま直ちに飼料の統制を撤廃することは畜産の現状より見てその影響する所甚大なるも統制の範囲は出来得る限り縮減し,全国統制は輸入飼料油糧の副生物食糧払下品一定規模以上の製粉工場から生産される麩,以上の品物を含む配合飼料とし,地方的統制飼料は全国的統制飼料以外の麩,米糠及び油粕に止めること。
 A 公団廃止後における統制方式は,全国を通じ飼料需要者を中心とする純民営の配給機構により,飼料の集荷,配給,価格,金融に付き畜産家の意向を充分容れた適切な運営を為し得る様措置すること。
 B 飼料の品質向上の為国営による検査制度を実施すること。
 C 飼料供給増加のため速に次のことを実施すること。
  1.飼料圃の設置拡充に付法的措置を講ずること。
  2.家畜飼料の保有量を増加すること。
  3.飼料輸入補給制度を継続すること。
  4.輸入飼料の増加を図ること。
  5.牧野の改良に付き法制的予算的措置を講ずること。
  6.飼料作物の改良増産につき優良種子,種苗の増産,輸入,肥料の増配等適当な措置を講ずること。
  7.野草の改良及びその徹底的増産並びにその利用措置を図ること。
  8.微生物等による科学的,生物学的方法による未利用資源の飼料化について,積極的研究及び工業化の方途を講ずること。
 D 飼料配給対象家畜の種類及び数を増加すること。

4.畜産団体組織強化に関する件

  現在中央に畜産に関する総合団体として社団法人日本畜産協会があるも,その実体は未だ強力ならず,而かも地方との連絡を保持する上において幾多遺憾の点あるを以て,地方においては凡ゆる畜産関係団体を総合して都道府県畜産協会(仮称)を速かに結成し,之ら地方都道府県畜産協会は日本畜産協会に加入して現在の日本畜産協会の会員と同等の資格を得て,中央,地方を通じ畜産関係団体の連絡を緊密不離たらしむると共に相互に之等団体の強化を図り,以て全国畜産家の総意を結集し得る態勢を整え,随時畜産家の意思を国会政府,地方庁等に強力に反映せしむる措置を採ること。

5.政府は左の各項を速に実現すること。

 @ 優良種畜種禽の輸入
 A 家畜家禽及び畜産物の輸出促進
 B 皮革並びに国産羊毛の統制即時撤廃
 C 家畜家禽及び畜産物の運賃低減
 D 競馬は速に民営とすること。
 E 家畜共済事業の共済掛金及び事務費に対し国庫負担をなすのほか,農作物産けんと同様家畜共済事業の強化をはかること。
 F 家畜防疫上及び取引上速に適当なる家畜市場法を制定すること。
 G 国有種畜貸付制度の復活強化
 H家畜伝染病予防法による殺処分手当の増率をはかり,且つ手当最高限3万円を撤廃すること。
 I 種畜法を改正し,優良種畜の増強を期すると共に,これに関する事務一切は府県知事に委任すること。
 J 種畜牧場の整理に関しては,優良種畜種禽の増強確保を期せられる様措置せられたい。

6.畜産議員連盟の組織を強化して,その強力なる政治活動を希望す。

 右決議する。
  昭和24年11月7日
  全国畜産大会