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畜牛界の原爆的大敵牛疫について

ii生

 牛疫と言う病名は凡そ獣医師であるものは知らないものはないだろう又70才以上の高令の画産人なら本病は御存じの筈である。先月号に注意はしてあったが重ねて愚文を提してこれが懸命の警戒に御協力を御願いしたい。
 この病気は家画の内では牛,緬羊,山羊を侵す極めて急性の熱性伝染病で殆んど100%の死亡率を示す所謂新語の原爆的大敵である。この病気は旧くからある世界的のもので特に満州支那大陸等には常在して我が国でも数回伝播の歴史を以っているが明治11年の大流行の後,絶っているので内地の現在の獣医師も一般畜産家も見たことも,その恐ろしさも実際は知らない人が多いようである。それが終戦の結果只一の第一線防疫陣であった朝鮮の牛疫に対する研究防疫機関がなくなり現在では本土の輸入玄関である動植物検査所が最前線となったのであるが最近頻々として朝鮮支那台湾などから活牛や畜産物や其他種々の物資が密輸入せられつつある様子が伺われるとき,最近は台湾沖縄に侵入して大流行があると言う農林省からの通知があった。朝鮮支那方面の近況は判然としないが台湾沖縄の病原地はおそらくこの方面と思われるので近辺は余程注意しないと誠に危険である。本病が一度侵入した際は現在の防疫戦備では牛仲間の全滅を覚悟しなければならない状況である。先輩の教えによれば伝染の速さは1日15哩の行程を以って伝播すると言う,ことである。その病状は色々で初めての感染地帯では仲々牛疫固有の病状を示さないものが多いので細心の注意が必要である主な病状は突然発熱(40度から42度の高熱)を示し3−4日で死亡するもの又は末期に熱が下がり死亡する其の間に眼から涙を流し初めは普通の涙であるが次いで くなり結膜は赤くなり遂に膿様となり鼻からは初め水鼻で遂いで涙と同じように膿様の鼻汁を漏し又血液を混ずることもある。口内は粘膜が赤くなり所々に爛斑(あかはだか)や疑膜(白い皮)が出来る。これは上顎や下歯齦など至る所である。それから陰間や肛門附近の皮膚は水泡が出来破れて爛斑となり次いで仮皮となる。又消化器病状は食欲がなくなり反芻(ねりがみ)が止まり糞は軟便次いて下痢便となる其の臭気は腐敗臭で鼻を突くいやな臭である。而し斯様な判然としたものは定型的なもの仲々判然としないものが多いから充二分の注意が必要である。又伝来は牛から牛に行くとは限らず牛に触れた人や病毒に汚れた飼料や器物から伝播し前にも述べたように極めて急速の行程で伝染するのであるから最初の発見が最も重要で之によって英断の防疫処置を取ることの外大流行の防止策は仲々ないのである。
 獣医師各位も畜産人の皆さんも充分注意を払われ疑わしいものは直ちに電話か電報或は速人を以って県庁畜産課の防疫係に判定を求められたい又密輸入の疑ある家畜や畜産物を発見した場合も同じく緊急連絡の方伝米防止に協力を御願します。