ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和25年2月

反省断行

岡山県畜産課長 惣津 律士

 戦後のインフレの波に乗った畜産は家畜価格の暴落,畜産物の販路の減少,さては飼料の騰貴等に依り宛も暗礁に乗り上げた感があり,特に思惑に依って畜産を始めたものに取っては相当の痛打である。
 畜産と言うものは農業経営と分離して存在し得ざるものであり,一方日本農業の安定に対して欠くべからざる要素である,この原理に基き健実なる畜産こそ望ましいものがあって畜産で一儲けしようなどと考えたらそもそも間違いである。
 そこで本年こそ畜産人に取って反省の年であり,将来の畜産百年の計を樹立して確固たる基礎をきづくべき年である。
 家畜及畜産物の価格が下って販路が縮小されると,戦前の地主のようにふところ手でいても買手がどしどし頭をさげて来た時は夢物語となり,自らの力で開拓しなければならない,ここに出荷販売組織の強化確立という問題が生じてくる,消費地と生産地が手を握り中間搾取が少なくなり,農民に確実な収入が保証されてそれが再生産に活用される事が望ましい。
 消費も国内の開拓と積極的なる国外への開拓の2つがある,国内消費としては農民も都市の人と生活様式の改変に依ってどしどし畜産物を摂取する必要があり,更に東亜市場へ積極的に進出する事は中央の施策として強力に押し進める重要な事項であろう。
 次に畜産物の販売加工業者に適当なる金融措置を講ずる事も必至の事項である。
 畜産物の生産費の低下は乳製品に於ては工場の合理的整備も必要であり,一方農村側としては自給飼料部面の開拓に依り相当程度達せられる事は常識的に考えられる事である。何としても農業経営内の畜産の地位を向上せしめて日本農業の安定に資しながら,安価にして良質の生産物を豊富に供給する事は誰しも考えられる今後の畜産の形態であろう。悪い条件下にあえぐ畜産は一般的に極めて不安定のように見えるが,我々畜産人としてはその内に有利な材料をしっかり把握して将来に処して行く事が大切となってくる。
 安定した経営の上には改良された優秀な家畜が存在しなければならない,随って家畜の積極的な改良はこの際特に取上げるべき事項である,優秀なる種牡畜の血液を高度に分布せしめるために官民一般の体制で高度の技術を活用しなければならない。
 日本の如き零細農家に取って1頭1頭の家畜の経済的地位は高い,随ってこれを損失する事は場合に依っては致命的打撃を受ける事となる,家畜一般の認識と普及は安定共済の済経を農民各自のせしめる重要事項であり,農民の義務である。
 家畜衛生も又縁の下の力持ち仕事としてゆるがせに出来ない,いつ農家に強力な伝染病が侵入しないと誰が保証し得よう,百の活療より一つの予防が極めて大切である。
 かく考えるとき,今後の畜産の方向は誰しも納得が行くと思う,我等畜産人は徒に変貌する様相にまどわされずに,畜産の常道を進むべきではなかろうか。