ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和25年2月

食生活改善の為
よい蛋白質と脂肪をとりましょう

 私達がこの世に生れるとすぐ乳で育てられます。赤ちゃんはこうして約半年の間は母乳だけですくすくと成育してまいります。この場合赤ちゃんにとって母乳は完全食であるわけです。しかし7ヶ月頃から赤ちゃんは母乳だけでは物足りなくなり少しづつ牛乳,鶏卵,粥,野菜スープ,果汁等を加えてゆくようになり,そして次第に大きくなるに従って食物は種々混食するようになってきて,決して一種で完全な食品はないわけであります。
 しかし赤ちゃんにとって母乳が完全食であるように,乳は人体を作りあげる上に最も相応しい成分を配合しもっているわけです。
 戦時中には国氏ひとしく食生活の如何に重大であることを骨身にしみて体験させられました。一時は数百万の餓死者をも予想させた一時のあの悲愴な頃のことをおもい返して見ると全く夢のようでもありますが,しかし現在でも以前に較べて飢じいおもいをしないだけで決して栄養問題が解決したわけではなく,食糧の豊富な米国でさえも栄養についてはますます研究されている状態であります。
 日本人には日本人らしい食事でよいと頑固に主食として偏った食べ方をしている人は,終戦後に進駐して来た兵隊さんを見て,きっと驚いたに違いないでしょう,体躯も立派だし,顔色もつややかで,いかにも張切って元気です。これは何処から出て来たかを考える必要があります。外人の食事を見ると最も栄養価の高い牛乳,卵,肉類,バター等を充分にとり入れ,澱粉質は少野になっていて在来日本食に較べると量的には非常に少なくなっていることは今更申すまでもないでしょう。
 日本食では澱粉質である米,麦が主体なのでどうしても量がかさばり,これを消化する上に摂取量の約1割のエネルギーが消耗されるので,これ又ずい分損をしているわけであります。成分のバランスがとれていないのでその不足の蛋白質をとらんがためにどうしても大量米,麦をとるようになるので,消化器は過労になり,それがため胃腸病が多いといわれます。外人だけでなく日本人にも乳は同様に最もよい食品なのでせめて1人当り1日1合でも2合でも牛乳が飲めるようになれば,栄養問題もずい分明るくなって,少しづつでも日本人に特に不足している動物性蛋白質の卵類,肉類ももっと食べられるようにしたいものであります,しかし過去において宗教的に4つ足のものを禁じたことや,又農家で牛を大切にすることによってこれらを禁じていたことが,日本人の食生活に相当わざわいしたようであります。現に津山市で調理講習会をした時に,若いお嫁さんが「家では牛肉が食べたくてもお年寄がやかましくて,牛肉を食べるなら納屋にいって食べなさい。家の中で食べてもらっては困る」と言う訴えに驚いた有様です。しかしも早やこんな時代ではなく,科学に立脚したよい食生活に進んでゆかなくてはなりません。海に遠い農山村では,自家用に雌や,兎や,山羊,出来れば乳牛までも飼って戴くことが一番望ましいことです。農業経営も次第に有畜農業に改良されつつあり,又乳の量も県では戦時中の約2倍と言う生産量を示すといわれますので,食生活の面では,これを最も上手に調理にとり入れて食膳を楽しいものに致したく皆で工夫したいものです。(未完)

農業改良課本村かず子記。