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調査及技術指導
緬羊の分娩時と分娩後の手当

 緬羊の在胎日数は種類や個体に依って多少の相違はあるが普通約150日であって秋10,11月頃に種付したものは翌春3,4月頃分娩する。分娩期は種付の日から起算すれば大体予定が出来るから分娩期の迫った妊羊は他のものと分離して特に注意して飼育するがよい,分娩期が近づくと妊羊の腹部は著しく膨大すると共に下垂し分娩の直前になると何となく不安の状態を呈して前肢で寝藁を掻いだり,鳴き声を発したり,起臥しながら頻りに産所を求める様子をする。更に進めば陰部から青黄色或は黒色の水嚢を下ろし横臥して時々呶責し約2,30分の後胎児を娩出するものである。

一.分娩時の手当

(一) 正規の分娩時は仔羊は爾前肢を揃えてその先端に鼻端を載せて産道から現れて来る斯様な場合は人手をかけないで自然のまま分娩させるがよい。
(二) 胎児が大きすぎたり死産とか或は位置が正しくない為め難産することがある。呶責を始めてから1時間以上もかかる様な時には其の原因をしらべて必要に応じ手を消毒して助産をする必要がある。
(三) 難産の場合は其の状態と観察してから産道にはワセリンか菜種油又はオリーブ油の如きものを充分に塗り滑らかにし助産者も爪を切り手に油を塗って仔羊の位置を直してから引出してやらねばならぬ。
(四) 難産の場合母羊の前駆を高く位置すれば手を入れ易く位置も直し易い,然る後静かに母羊の陣痛と共に仔羊の前肢を徐々に引出してやるべきで終始決して手荒なことはしてはならない。
(五) 難産の為め手助けする場合は其の前後の消毒を厳にして産道を負傷せしめざる様注意を要する。
(六) 産仔は常に胞衣を破って胎盤を引いて出て臍帯は自然に切断されるけれども往々胞衣を被ったまま産れることがあるから斯る時は直ちに鼻端の胞衣を破って鼻口部の粘液を拭い去ってやる。
(七) 母羊は産仔の体の粘液を舐め去り仔体の乾燥を計り哺乳の本能を促すものであるが,母羊が仔羊を舐めない場合は仔羊に附着している粘液を母羊の鼻に擦りつけたり或は仔羊の体に麸,米糠,又は食塩などを振りかけて仔羊を舐め乾かせる様にみちびく,上の効果のない場合には乾いた布で仔羊の体を拭って乾かしてやらなければならぬ。
(八) 難産の為め母羊が疲労し起つ事が出来なければ仔羊の臍帯を腹部から2−3寸の処で切ってやり母羊の鼻先に仔羊を押出してやる。
(九) 難産の為め仔羊が仮死の状態にあったならば口を開き2,3度息を吹き込み肺の作用を喚起し又之を横臥させて胸部を軽く叩き之を反復する。
(十) 酷寒期に生れた弱仔羊は湯に入れて血行を旺盛にし元気付け乾いた布で湿気をふき去り乾くまで摩擦してやり母乳を飲してからも温かい所に置く。

二.分娩後の手当

(一) 母羊が仔羊に授乳を嫌う場合には1日数回母羊を保持し強制的に授乳させて次第にならすことも必要であるし,反対に母羊が仔羊を可愛がっても仔羊が弱ったため起き上がれなかったり或は母乳の飲み方を知らぬ様な場合には手を加えて母乳を飲ます。
(二) 2仔生産の場合1仔のみを愛して他を顧みないものがあるから斯る時は母羊を起立のまま仔羊の前肢を屈せしめ哺乳を助けてやらねばならぬ。
(三) 分娩後に乳房を検べて之を搾って見ることと乳房の周囲を掃除剪して哺乳に便することが必要である。
(四) 母羊は分娩後に渇を訴えるものであるが冷水を一度に多量に飲ませてはならない,少し温め間を置き数回に飲ませることが必要である。
(五) 生後2,3ヶ月して仔羊の便秘する時はヒマシ油,菜種油,オリーブ油又は白絞油を10−20滴与える。グリセリン浣腸も有効である。
(六) 分娩後1週間は他羊と別にし母羊の栄養状態及母羊の乳房を観察して泌乳の具合を検べなければならない。
(七) 泌乳が少なければ人口哺乳の必要があり多過ぎたり乳房の一方のみを哺乳するようならば乳房炎を起すことがあるから予防の要がある。
(八) 分娩後母羊に直ちに多量の濃厚飼料を与えれば乳熱を発することがあり又運動不足の為め胃腸を害せば仔羊の下痢を誘発するから34日間は良乾草や根菜類のみにて飼育し爾後漸次後,燕変,大変等の如き濃厚飼料を給すべきである。然し母体の栄養が悪く泌乳の少ないものには直ちに穀物を与えねばならぬ。
(九) 母羊は時として産後食欲のないことがある。斯るものには甘味の消化し易い飼料例えば麸,クロバー,葛,萩,等の最良乾草を与うべく便秘を伴う時は石鹸微温浣腸が宜しい。
(十) 分娩後母羊が斃死し仔羊が残ったり双仔,三仔は勿論単仔でも母乳の不足する様な時は他に仔羊を失った母羊などにつけることがあるがこの場合はその付け様と思う母羊の実仔の皮を剥ぎ取って仔羊に着せたり又母羊の尿や乳などを其の鼻や仔羊の臀部に擦りつけて薄暗い所に同所させて時々手を加えて強制的に哺乳させてやると次第になれ実仔の様に授乳する様になる,もしこの方法が出来ぬ場合は牛乳などで人工哺乳をする。

三.断尾

緬羊の断尾は臀部に糞尿や其の他の汚物が附着するのを防ぎ種牝緬羊の種付を容易にする意味において必ず行わなければならぬ,断尾は生後1週間か10日位の間に行うと作業も容易であり切断した瘡口も早く癒えるものである,断尾せんとする際は天気の良い無風の日を選んで行うが良い。其の方法は種々あるが茲には最も普通に行われているのは次の2種類がある。

(一)小刀使用をする場合

小刀の場合も断尾器の場合も何れも助手をして仔緬羊を捕えさせ前後肢を左右別々に握って保定させ尾根の部分を麻縄の様なものでしっかり縛って予め出血を防ぎ第2関節と第3関節との間を鋭利な小刀で一気に切断し後烙鉄をあてて血管を塞ぎ縛った紐を解けばよい。

(二)断尾器を使用する場合

前述の場合と同様に助手に保定させ断尾器を赤熱程度に適当の熱さに熱して同様前の部分から挟み切るのである。此の場合適当の大きさの板に円い穴を開け之を尾に通して断尾すれば体の他の部分を焼く心配がなく一層安全である。
創口にはヨードチンキ又は木タールと塗布すると安全である。