ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和25年2月

顧照脚下(3)

杜陵 胖

 農業経営の上手なやり方としては,飼料費,肥料費,に金を掛けないことである。戦後の農業経営もこの両方の面に於て農家は相当苦労もし,研究もして来たのであるが,両者の連りがまだまだ不充分のようである。なるほど化学肥料の不足を補う為め自給肥料の対策は種々考えられ,草刈運動をしたり,緑肥作物を作ることを研究して来たが,その結果は単なる肥料であって,飼料との関連は殆ど考えられていなかったようである。農業経営組織の一要素としての畜産の存在を考え,畜産の重要性を認識するならば肥料と飼料とを関連させて考え,家畜を通してこの肥料の生産を考えて来なければならない筈である。この一連の考えが生長して農業経営の合理化が考えられ,肥料に,労力に,飼料に,金融に理想的の営営がなされるのである。こんな事を今更書く必要もないような気もするし,今頃こんなことをと笑う人もあると思う。然し,其処に農業経営のむつかしさがあり,進歩発展が遅々として行われないことも考えさせられるのである。緑肥作物には次の様な条件がある。

(一)栽培に労力を要することが少なく,生長力強く,生長速かであって,而も容易に収穫出来るものでなければならない。
(二)収量多く,肥料成分に富み,且つその生長に肥料をあまり必要としないものでなければならない。
(三)深根であると下層の養分を吸収し得るものでなければならない。
(四)採種量多く且つ採種し易いものでなければならない。
(五)家畜の飼料として利用し得られるものでなければならない。

 以上のような条件から緑肥作物として利用されるものは,その殆んどが荳科植物である。荳科植物は窒素分が多いのであるが,窒素分の多いことは祖蛋白質が多いことになり,従って飼料としては貴重なものであることになるのである。こう考えて来ると緑肥作物を作ることは飼料作物を作ることであり,家畜を飼うことにもなるのである。この論法で行けば緑肥作物を作ることは養畜と関連させて初めて意義があるのであって,単に緑肥作物のみを作って,それをそのまま土地の中へ入れてしまったのでは,農業経営は上手とは言えないことになって来る。
 土地の狭い日本では土地を二重,三重に利用されなければ農産物の生産費は決して安くならないのである。世界の市場に連がった日本の今日では総ての農産物の生産費を低下しなければ競争の出来ないことはよく判ったことである。そこで土地から生産された緑肥即ち緑肥を二重利用して家畜を肥やし,その肥料を土地へ換えすることが必要になって来るのである。
 裏作,混作,間作,周囲作,輪作等によって得られた,紫雲英,ザートウィッケン,ヘヤリーベッチ,蚕豆,豌豆,ルーサン,クロバー,苜蓿,十徳草等がどしどし飼料として利用されるようになりたいものである。