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平和への前進
(動物愛護の日に寄せて)

日本畜産協会副会長 田口 教一

 終戦前は毎年4月7日を愛馬の日として特に軍馬を讃えいつくしんだのであったが,終戦後の武装を放棄した今日ではもう既にそんな必要がなくなってしまった。と言っても決して動物に対する愛情を失ってはならないのであるから,何か動物を愛護する記念事業をやって行こうという相談が纏り,自然を讃え,生物をいつくしむ日として春分の日を選び昨年その第1回の「動物愛護の日」の催しを行い,そして今年もその記念すべき日が廻って来たのである。
 いまや国際的に危機を胞む不安な状勢が暗い翳を投げかけてはいるが,世界に類例を見ない武装放棄を宣言した日本は,只平和への斗争なき斗争を敢然として行うのみである。
 この男々しい行為は全く平和を希求する博愛の精神に満ちた人達によって始めて為し遂げられるものと言えよう。
 然しながら如何にわれわれが「博愛」を誇張しても,過去10数年に亘って犯した禍痕は世界中の人達の信用を克ち得ることをむづかしくしているし,事実われわれの心の内に無意識に存在していた荒い気持は一朝一夕には根こそぎに絶やすことも困難である。
 子供達が犬や猫を見ると直ぐ棒や石を持っていどみかかる無益な斗争心やこれを見て咎めようとしないのみか,むしろその行為を褒めるような大人達がまだまだわれわれの周りには一杯見受けられ,識らず識らずの内に残虐な性質を助長しているのである。
 日本人の生物に対する愛情はもともとこのような悲しむべきものではなかった。そのことは歌や俳句を好む伝統的な自然への憧憬的態度によっても知ることが出来る,生物に対するこの愛情が残念ながら過去10数年の殺伐な環境の為に自然に何処かへ失われてしまった。
 われわれはこの失われた過去の美点をもう一度とり直したいものである,「動物愛護の日」は失われたものを呼び起す動機となる貴重な日である。われわれはこの意義ある日を期して平和への道を一歩一歩前進しようではないか。