ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和25年3月

飼料問題の反すう

畜産と林業とのつながり

農林省林試高島分場長 農学博士 倉田益二郎

 西山氏は乳価値下げ後の酪農経営農学第4巻第2号文中牛乳生産費が最も多く全体の52%をしめ,労賃は22%,乳牛費は19%,その他7%であるから,牛乳生産費の大半をしめる飼料費を節約すればよいわけで,できるだけ飼料の自給を高め,飼料の経済化をはかることが必要だと述べている。
 そのためには特に農耕地を高度に集約的に利用し,計画的輪間作混作等により適当な飼料作物を栽培すると共に,農場副産物を利用しあるいは原野,川敷,畦畔,などの草生を改良し質が良くて収量の多い粗飼料を沢山に生産利用し,飼料の不足を補わねばならない。
 しかし我国の飼料作物の栽培面積は大変に少なくわずかに耕地の2%でアメリカの24%,スイスの64.2%,オランダの68%,デンマークの42.1%に比べて,はなはだしい狭い面積に過ぎず,なお増反の余地の多いことを指摘している。
 このように粗飼料の不足に対して早く増収する対策として畜産家は未利用又は不完全利用地の合理的利用を唱えられることはよいがもっともっと眼を開いて,世界でも有数の山林国である日本国土の約66%が山であることに着眼して,この利用更生について真剣に考え且つそれを実行に移す必要がある。
 日本とよく比べられるスイスも山林国であるが驚くほど高い山の上にまで耕地を作り飼料作物を栽培していることが,スイス国の酪農発達の一因でもあろう。
 飼料に困るという人が山持ちであったり,大きな河に沿った部落が草刈り場がないとなげいたりしている例がよくある。しかし少しく工夫すれば,山の木を一層生長させながら飼料を沢山採ることもできれば,又採草地にわずかの樹を植え込んで収量を倍にすることもむずかしくはない。又牛のつけようがないと考えられているはげ山や,ほとんど利用価値のないやせた雑木林や,生長の悪い松林は,やはり新しい技術を取入れれば,緑化もでき多量の飼料が薪炭材と一緒に得られる。
 このような新しい技術の急所は肥料木草を植えることにある。ところがこのすばらしい効果をもった樹草については,ほんの一部の人々が知っている程度で,実際に実行している人は更に少い。
 筆者はかって山羊の飼料にするため,大河川の堤にイタチハギを栽培したいという人に種子を1斗送ったが,その人が「節分の豆まき」のようにまいてしまった。どんな野生の強いイタチハギでも,何の準備もしないで雑草の多い堤にはやすことはむずかしく,やはり穴か,すじ状に播種床を作るとか,あるいは畑で苗を育ててから植付けてもらいたかった。こうすれば10万本余が繁茂していたようにと思うと残念であるが,筆者はこの時から飼料木草の繁殖や栽培法については案外に素人の多いことに気がついた。
 又この外に深く考えさせられたことは悪い牧草の多い我国の現状では優れた移入牧草をとり入れて改良をすることは必要であるが,無批判的に奨励したり,栽培しないでもっと反省して,郷土に適した優秀な,今まで見のがしていた野生牧草についても一層の検討を加える時代がきているのではなかろうか?と言うことである。
 近頃林業方面では乱伐やマツクイ虫で山が荒れ,治山,治水上心配なので,植林の急務がやかましく叫ばれており他方農業方面では家畜をとり入れた有畜農業による経営の合理化が重視され,家畜の増殖に伴う飼料の不足が問題になっている。
 しかし植林と飼料の二つの重大問題は,それぞれが別に考えられ行われようとすれば多くの困難にぶつかるに違いない。けれどもこの両者がこんぜん一体となるように実行されれば,その解決は大変易すい。すなわち有畜林業といわれるように,林業と畜産とが不可分の関係にあるように行われるならば,早く,容易,確実にこの大問題も解決し得るであろう。
 筆者は以上のような構想をもって上道郡高島村にある高島分場の試験地,児島郡鉾立村の混播試験地と,広島県佐伯郡大野村のチチヤス牧場(乳牛約100頭がいる)を試験地としてその研究を進めている。このような研究はただ限られた少人数がやるよりも各地で多数の人々が,多方面にわたって実行してこそ早くよい成果をあげうるのであるから,読者諸兄の御協力をも得て進めていき,飼料木草の栽培においても畜産県岡山の名に恥じないようにと考えるが,果してこれは筆者だけの希望であろうか。