ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和25年3月

飼料問題の反すう

牧野改良の諸問題

ただ生

 畜産増強の基盤である牧野は農地開放と共に牧野の開放が行われ,牧野面積の縮小を余儀なくされた,これに反して家畜は大いに増殖せねばならぬので,その打開策としてどうしても牧野の集約的経営に向わなければならぬと言うのが,その調整策の一つである。
 もう一つは,今まで牧野に利用されていなかった草地を極力牧野的に利用して行くことで,これは畦畔堤塘河川敷地道路及び鉄道沿線等優良な牧草と野草の適地で,これらを集約的に使って行く,普通吾々が対象としている牧野よりも地味が非常によくて,割合良い草が生える可能性が多い,これをできるだけ改良し草資源を有利に使うことが,そのニである。
 もう一つは,薪炭林の面積が,非常に沢山あり,且つ割合里に近いからここに牧野的な利用を行うことが考えられる。大体以上の三つの方向に向って進まなければならない。以下牧野改良上の色々な問題について記し諸賢の御参考に資す。

放牧地

 集約経営のためには従来のままの粗放な経営の在り方を改善しできるだけ狭い面積で多くの家畜を飼う方向に進まなければならない。大体山地は比較的雨量が多いため燐酸分,石灰分等が欠乏しているからここに自生する草の種類をできるだけ維持助長し,新たな種類を導入するにもこの点を慎重に考えねば失敗する。例えば一つの山が従来のように大きな面積を草地にして利用することは不経済であるから,林木の適地であれば,林木を育成し用材を取るようにする。嶺の部分は斜面地に対する肥料の給源地になるから山頂には必ず樹林を作り,さらに斜面にも木を植え樹葉の落下腐熟によって水にとけた肥料を斜面に流下させて供給することによって窮乏する養分を或る程度防ぎ,土壌の肥料分増進に努める。全面積を純粋な草地とするよりも,30%の樹林があれば草の量は増し,決して減産にはならない。こう言う意味で、専用の牧野にも樹林の活用をする事が林の中にもこの牧野を拡張して行く為に必要な事である。この専用牧野の林を牧野林というが,我が国の気候風土から山地の状況を見て,これは必要ではないかと思う。放牧地は形のらの牧野林上か整備と,その使い方によっては較換放牧を行うことである。これは従来の放牧期間中自由に放牧する全期放牧に対して,幾つかの区域に分け順次に輪換して放牧するもので普通の輪換放牧でも最低1割の牧養力を増すことができる。現今はこの輪換放牧方法に各種の改良が案出されているがその中の待期輪換放牧は単なる輪換放牧に対して,30%程度の牧養力を増す事が可能である。これは一つの牧野を幾つかに分けてその中に,1牧区が草の生え方が悪くなると,この一つを待期牧区にして,草類の実が結ぶまで,他の牧区で輪換放牧をし,最後にその区に放牧して落ちた種子を地表に鎮座させて翌春の発芽に役立って草生を回復させる方法である。更に集約化するためには優良野草を導入して草生を改良して行く,この場合は輪換放牧の1牧区を主として運動する区にして,これに秋まで過放牧の方法で草を踏み荒させ(他の牧区には定時的に誘導喫喰さす)糞尿を運動区に集中的に散布させ秋の終りから春に種子を播き付ける方法によって優良野草なり,牧草なりが導入できる。これを順次他の牧区に及ぼして行く。
 次に牛馬の輪換混牧であるが,これは草に対する家畜の喰性が種々異っているので,例えば家畜別に見ると、草の種類が100あるとして,山羊は78〜88%を喰うことになり,緬羊の場合は75〜88%,牛は56〜73%,馬は最も少く55〜63%,家畜の種類により草の喰う種類が異って来たからその性質を考えて,放牧地の草を無駄なく利用する事が家畜の輪換混牧である。馬と牛を使った実験によれば,馬の放牧跡に牛を使って利用させたもので馬軍独にやった場合100%に対し牛単独の時は137%,牛馬混牧の場合は146%,若干乍ら馬及び牛単独に使用する場合よりも牧養力を増して来る。さらに草の種類の多い所であれば緬羊,山羊を入れる事により放牧地の草類を無駄なく使う事が出来る。
 次に放牧方法によってどの様に牧養力が変ってくるかを実験した成績を記すと,全期放牧と,輪換放牧の二つの方法をやったもので,全期放牧の場合,普通の区と,ヤマハンノ木を植栽(反当20本)した区輪換放牧の場合普通の輪換だけの区の実験成績は全期放牧の普通の区10%輪換放牧区が126%になっている。採草地でヤマハンノ木植栽の場合は,大体倍近い草が得られるが,放牧の場合は125%である。これは放牧すると踏荒しや,間断なく喫喰されるからである従ってヤマハンノ木の植栽と輪換を組合せる事により牧養力を増す。さらにこれに優良野草,牧草の導入による草生の改良を加味して行けば相当面積の節約ができる。
 日本と外国の牧草地で牛馬放牧の1頭当り(150日放牧するとして)草地の所要面積は次の通りである。

  日本 外国
幼牛 1町6反8畝 0.2〜0.3町
成牛 2町2反6畝 0.3〜0.5町
幼馬 1町9反0畝 0.25〜0.3町
成馬 2町3反7畝 0.5〜0.6町

 これを見ても草の種類及び草生がよくなると相当面積が節約出来ることが窺える。日本に於ても草地を牧草に切り換えた実験では1頭0.8町で済む事が実験されている。
 次に放牧地と採草地との問題であるが,これは放牧地として利用する場合と,採草地として利用する場合とでは草による飼養日数が3分の1で足りる。従って従来の儘の放牧日数を短縮して採草地に転換する事である。放牧地の方は地形や水の関係も考えなければならぬが,採草地の方は比較的急な斜面でも利用でき,家畜もいないので水を飲む事もないから放牧地を一部採草地にする事によって節約面積は開墾地に転換出来ることになる。