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農家経済の金づまりは深刻化の一途をたどっているが25年度の農家家計の見とおしについて物価庁の見解等を参考にして考察してみたい。
一般物価は下落の傾向に進んでいるが生計費に重要割合を占める主食調味料,電気料金,其他統制品の公定価格は引上げられ更に国鉄貨物運賃の引上げによる影響は直接間接に家計を脅かす心配がある。
これに対し物価庁価格研究会では
一 価格改訂の影響
二 増配の影響
三 税制改正の影響
の以上3点から推定した25年度農家家計の見とおしの資料を作製したがこれによると農家家計は24年度に比べると2.9%の負担となるが,税制改正の影響によって15.02%の負担軽減が見込れるので差引13.08%の負担軽減とみている。然し以上の資料の外には
一 肥料価格の値上りその他営農費の嵩増
二 国鉄運賃引上げによる統制外日用品価格の引上げ
三 住民税その他の地方税の増徴
四 農家収入面の変動
五 其の他飼料価格の値上り
等については計算に入れていない。
従って経営費の増大,又農産物価の他物価に比べて下落の比率が高いことなどを考慮に入れると例え25年度の供出食糧価格が引上げられても営農費が家計費に食いこむ事が予想され,又税制改正によって地方税が増加することを織り込むと実際問題として25年度における農家家計が24年度より1割3分以上も軽減されるなどとはもっての外で反って逆に支出増加になると推察される。
今一例を近藤康男氏の自作収益価格試算を借りてみると
A 米の生産価格石当標準4,250円の場合(昭和24年)
B 所謂安定状態における自作農収益(税制改革,肥料価格改訂によりAを修正したもの。)
A | B | |
反当玄米収量 | 2石112 | 2石124 |
供出 | 1,102 | 1,108 |
自家消費 | 1,010 | 1,016 |
同上価格 | 11,295円 | 11,360円 |
供出 | 4,959円 | 4,986円 |
自家消費 | 6,336円 | 6,374円 |
副収入 | 1,073円 | 1,073円 |
反当粗収入計 | 12,368円 | 12,433円 |
支出 | ||
反当生産費 | 12,155円 | 12,647円 |
内訳 | ||
種子代 | 224 | 224 |
肥料代 | 2,768 | 3,250 |
労賃 | 5,056 | 5,056 |
畜力費 | 860 | 860 |
諸材料費 | 135 | 135 |
農舎費 | 177 | 177 |
農具費小 | 237 | 237 |
農具費大 | 413 | 413 |
粗税公課部落協議費 | 1,940 | 1,938 |
小計 | 11,810 | 12,290 |
流動資本利子 | 345 | 357 |
純収益 | (+)213 | (−)214 |
上表について近藤氏は次の様に説いている。
シャープ勧告に基づく税理改革,価格補給金の廃止に伴う物価改訂を行いつつ所謂安定状態が実現されると言う考え方に従ってその場合の標準田の自作収益価格を試算したものがA表でありBはそれに修正を加えたものである。
a 収穫高は昭和23−4年の平均によった。
b 肥料の値上げは昭和24年12月18日硫安18%の値上げを全肥料に及ぼして試算した。(飼料の約3割値上げは稲作農家に直接影響が少ないとみて無視した)然しこの点は将来再修正を要すると思う。
c シャープ勧告に基づく課税の変更は
イ 国税である個人所得税は全体としては6%減としているが農民に対して従来通りという勧告である。
ロ 府県税は大部分の農民,殊に主食生産の農民に対しては附加価値を基礎とした事業税は免ぜられることになっており
ハ 市町村税が動産税を中心として約250%は増加する予定である。
これらの率を農家経済調査の一毛作田,二毛作田農家の昭和24年度の税額に乗じたものをもって新しい税体系の下における農民の税負担とする。
以上のように各要素をとり入れて所謂安定した状態に於ける農家の収支を検討するのに農家の収入を過力に支出を誇張して評価しないようすこぶる慎重に計算したに拘らず純収益はマイナスである。近い将来肥料の値上りがあるとすればマイナスは決定的となる。
それ故肥料価格引上げに照応するような米価引上げが将来実現される場合又は米価引上げの場合は別として昭和25年1月末現在に於て米作農家は借地に対して小作料を支払うことは不可能の状態にあり現在の75円ですらこれを支払うのは結果に於て自家労働を世間並の労賃より低い状態に甘んずること意味する。(K生)